おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜


「お祝いに飯でも食ってくか?何がいい?イタリアン?フレンチ?」
「ラーメン」
「ラーメン?」
「橋本軒の醤油ラーメンしか勝たん!」

 おしゃれなレストランで食べるご飯もいいが、今は昔ながらのあっさりした醤油ラーメンが猛烈に食べたい。
 
「一応、入籍祝いのつもりだったんだけど?ラーメンは別の日にして……」
「お祝いって……。私、クリニックの制服を着たままなんですけど?」
「そういえばそうだな」
 
 着替えに帰る間も与えられずクリニックからそのまま区役所に直行した弊害だ。自分に理があると分かると、千春はここぞとばかりに主張した。
 
「ラーメン!絶対ラーメンがいいよ!」
「まあ、ちぃがラーメンがいいって言うなら別にいいけど……」

 千春の要望に香月は簡単に折れた。クリニックの制服でも気楽に入れる馴染みのラーメン屋、橋本軒の暖簾をくぐり、カウンターに二人して座る。

「何にする?」
「醤油ラーメン、メンマ増量で」
「俺は普通の醤油ラーメンで」

 店員に注文を伝えると十分ほどで手元にラーメンがやってきた。鶏がらと醤油を合わせたあっさりしたスープに歯切れのいい細麵。具材は海苔、メンマ、チャーシュー、味玉と、シンプルなラーメンだ。

「いただきます」

 千春はこれこれ〜と喜びを噛み締めながら、熱々のラーメンを啜っていった。
 
「ちぃ、味玉やるよ。好きだろ?」
「やった。ありがと」

 香月から煮卵をもらい更に気分が上がる。そういえば香月はお昼もカップラーメンを啜っていた。二食連続ラーメンになるなら他の物にすればよかったかも。しかし、気がついた時にはもう遅い。夢中で箸を動かす千春を香月は楽しそうに眺めていた。

「美味いか?」
「うんっ」
「それはよかった」

 香月は特に不満を言うでもなく、千春の弾んだ声に嬉しそうに頷いた。
 
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