おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「家に帰ったら、たっぷり見返さなくっちゃ!」
「あんまり夜更かしするなよ?また倒れるぞ」
「もう……わかってるよ!」
明日は休診日なのだから少しくらい大目に見てもらいたい。本物の母親よりも口やかましいのだからかなわない。
しかし、心配性の香月に付け入る口実を与えてしまったのは他ならぬ千春である。
実は千春は大学を卒業してから二年間はとある食品会社で事務職として働いていた。お給料もそこそこで福利厚生も悪くなかったが、いつも人手不足に悩まされており、千春は恒常的に残業を強いられていた。
ある時、千春は前日の夜更かしがたたり、職場で倒れてしまった。これに敏感に反応したのが香月だった。千春の労働環境を見るに見かねた香月は柳原こどもクリニックに転職するように勧めてくれた。ちょうど新しい事務員を募集しようとしていたそうでタイミングも良かった。
愛する黄金塚に愛を注ぐために是が非でも働きたい千春はとんでもない力を発揮し、医療事務に関するいくつかの資格を難なく取得し……現在に至る。
お給料こそ前職より安めだが、歩いて通える距離なので満員電車に乗らなくて済むし、なにより定時で帰れる。院長は子供の時から顔見知りの洋介で、同僚も皆年上で千春を大家族の末っ子のように可愛がってくれる。転職前に比べれば千春のQOLはぐんと上がった。
つまり、千春はこの件に関しては恩人である香月に頭が上がらないのだ。