おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
2.結婚は眺めるもので、するものじゃない。
「千春、起きなさい。休診日だからっていつまで寝てるの!?」
「おはよう……お母さん……」
乱暴に身体を揺すられ、千春はモグラのように布団の中からもぞもぞと這い出た。
容赦のない母、晶子の手によりカーテンが開け放たれ、眩い日光が薄暗い部屋の中に差し込んでいく。うう、目がチカチカする。
時刻は既に十一時。朝日というより昼日と呼んでも差し支えない時間帯である。
クリニックの休診日は木曜、日曜、あと国民の祝日だ。木曜日のこの日、千春は堂々と朝寝坊を決め込んでいた。
「ほら、起きなさい!」
「あとちょっとだけ……」
「いつもそう言って夕方まで寝ているでしょうが!?」
寝起きの頭に晶子のキンキンとした金切り声が響く。ぐいぐいと強引に腕を引かれようとも、千春は頑として布団を手放さなかった。五分ほどの押し問答の末、晶子はとうとう根負けした。
「もう……いつまでもこんなに好き勝手していると嫁の貰い手がなくなるわよ?」
「大丈夫……。もう香月くんがもらってくれたし……」
「……え?」
布団を頭から被り直しもう一度スヤスヤと夢の国に旅立とうとしてる千春の愚行を、晶子は今度こそ許さなかった。
「ちょっと千春!どういうことかちゃんと説明しなさい!」
千春は即座にたたき起こされ、渦中の人物である香月が隣家から緊急招集された。