おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
渋々着替えを済ませた千春が一階に降りていくと、香月が真顔でダイニングチェアに座っていた。香月の真正面には険しい表情で腕組みをする晶子の姿。怒られる気配を察した千春は大人しく香月の隣に腰掛けた。
「ご報告が遅れて大変申し訳ありませんでした」
口火を切ったのは香月だった。晶子に向かい真摯に謝罪し、深々と頭を下げていく。
「それで……。千春と結婚したっていうのは本当なの?」
「だからそう言ってるじゃない」
「千春は少し黙ってなさい」
晶子は千春を鬼の迫力で黙らせた。黙れと言われた千春は不貞腐れわざと口を尖らせ、静かに不満を訴えるのだった。
「はい。昨日の夜、区役所の時間外窓口に婚姻届を提出してきました」
「本当……なのね?」
「……はい」
香月が力強く頷くと、母はようやく結婚の事実を受け入れたのか背もたれにぐったりと身体を預けた。
千春だってまったく同じように説明したのに、まるで信用されていなかったらしい。