おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「新居はどうするつもり?いくら隣同士だからって、新婚夫婦が離れて暮らすなんて”色々と”不都合でしょうに……」
「しばらくはこのまま生活しますよ。新居もおいおい考えて行きます。隣に住んでいるわけですから、特に急ぐこともないでしょう」
「あら、そう……?最近はそういうものなのかしらねえ……」
チラチラと新婚夫婦に交互に視線を送る晶子を見て、千春は昨夜感じた違和感の正体にようやく思い至った。
(……初夜か!)
あろうことか千春は結婚初日の通過儀礼である初夜をすっかり忘れ、普通に家に帰ってきてしまったのだ。香月も香月で、初夜を匂わせるようなことは一切言わなかった。
(あれ?初夜って入籍当日にするんだっけ……?それとも結婚式当日の間違いだった?)
スルーされた事実に困惑し、自分の勘違いではないかと初夜の定義を考えている内に、香月と晶子の話し合いはどんどん進んでいく。
「改めてご挨拶に伺いたいわ。貴方達、何の相談もなく急に結婚するんですもの」
「今更、挨拶するまでもないですよ。二十六年間隣に住んでいて知らない仲でもないでしょう?」
「そうは言ってもねえ……」
「堅苦しいことはなしにしましょう、晶子おばさん」
香月はそう言って話を締めくくると、未だに納得しかねてうんうんと唸る晶子を一階に残し、千春を連れ階段を上った。