おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「ほら」
「なにこれ?」

 香月が次に千春の部屋にやって来たのは、晶子に結婚を報告した翌週のことだった。香月は紙袋を持参しており、ゴルステの番組表とにらめっこをしていた千春の前にその中身を披露した。
 
「指輪とウェディングドレスのパンフレット。こっちはフォトウェディング会場の、だな」
「指輪も結婚式もなしって言ったじゃん」

 千春が不服を訴えるのことは予想済みだったのか、香月の唇が優美な弧を描いた。
 
「元『コガネジェンヌ』がデザインした指輪、つけてみたくないか?」
「……え!?」

 香月はそう言うと指輪のパンフレットをぺらぺらとめくり、とあるページを指差した。
 
「ほら、これなんか華やかなデザインでちぃにも似合いそうじゃないか?」
「うっ……!」

 そこには千春もよく知るかつて夏雲組のトップスターを務めたこともある元コガネジェンヌの御姿があった。確か、退団後は自らのジュエリーブランドを立ち上げ、デザイナーとして奮闘されていると聞いたことがある。
 
 『コガネジェンヌ』とは黄金塚歌劇団の舞台に立つ団員の愛称である。黄金塚歌劇団を退団したコガネジェンヌは女優やモデルとして芸能界で華々しく活躍される方がいる一方で、他業種に転身される方もいる。

「こっちのウェディングドレスはちぃの好きな冬空組の元マドンナ役がモデルをしてるんだと。どう?着てみたくならないか?」
 
 千春はドレスのパンフレットを眺めながら、ぐぬぬと押し黙った。
 着てみたいか着てみたくないかと聞かれたら、着てみたいに決まっている!

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