おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
どうせ指輪を作るなら、思い切り自分好みの物が欲しいと思うのは自然なことだ。
「こんにちは〜」
この日、香月と千春は都心の一等地にある『quartetto』というジュエリーショップにやって来た。例の元コガネジェンヌがオーナー兼デザイナーを務める店だ。
(わあ……素敵!)
ショーケースの中にはいくつものアクセサリーが並べられていて、宝飾品の類にはとんと興味のない千春ですら心惹かれるものがある。
「予約していた柳原です」
「お待ちしておりました」
香月が名前を告げると、ブラックのワンピースにピンクのスカーフを巻いた女性店員が二人を店の奥にある接客スペースへと案内した。
「本日、柳原様のご担当を務めさせて頂きます。筧と申します」
千春と香月が筧からそれぞれ名刺をもらうと、早速結婚指輪について話が始まっていく。
「お電話でご予約頂いた際にエンゲージリングをご所望だと伺っております。どのようなエンゲージリングを身に付けたいか、具体的なイメージやご希望などはお持ちでしょうか?」
「あ、いえ……特には……」
「それではまずは当店で一番人気のエンゲージリングをお持ちいたしますね」
筧は一度席を立つと、四組のエンゲージリングを持って戻って来た。