おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
1.愛をとるか、推しをとるか
「ちぃ、これは一体どういうことだ?」
隣の家に住む柳原香月が顔を引きつらせながら千春の部屋にやって来たのは、夜の七時過ぎのことだった。
千春は『黄金塚歌劇団』のCSチャンネル、『コガネヅカ・ゴールド・ステージ』、通称『ゴルステ』にチャンネルを合わせようとしていたところだった。
「どうしたの?香月くん?」
千春は早く用件を言えとばかりに香月を急かした。
千春が見ようとしていたのは、黄金塚の中でも贔屓にしている『冬空組』の『マイ・スイート・アンジェリーナ』という演目だ。
一週間前から番組表をチェックし、リアルタイムで視聴できると楽しみにしていたのに、香月に邪魔されてなんならちょっとした怒りさえ湧いている。
千春は黄金塚歌劇団の熱心なファンなのだ。
最近では黄金塚のファンを『ヅカオタ』なんて呼ぶらしい。そういう意味で言うならファン歴十五年以上の千春は立派な『ヅカオタ』だ。
「応募した覚えもない懸賞の賞品がいきなり届いたんだが……?」
「え!?当たったの!?星川恵流様の限定サイン入りブロマイド!」
香月が差し出した黄金塚のロゴ入り封筒を見ると千春は一気に目の色を変えた。興奮で息が上がっていく。