おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「こちらは当店のデザイナーが黄金塚歌劇団の四つの組をイメージしてデザインしたエンゲージリングです。当店のデザイナーは元コガネジェンヌでして……」
「存じ上げております!」
説明の途中で思わず挙手すると、筧が目を丸くした。
「ご新婦様はもしかして黄金塚ファンですか?」
「あ、はい……。いちいちお騒がせしてすみません……」
「大丈夫です。何を隠そう……私も同類ですので」
恥じ入る千春に対し、筧は満面の笑みを浮かべた。
コガネジェンヌが経営するジュエリーショップだ。店員もヅカオタなのは珍しいことでもなんでもない。
「筧さん、推しの生徒さんは?」
黄金塚歌劇団の団員は全員、『黄金塚音楽学校』という二年生の学校を卒業した卒業生だ。それ故に、コアなファンは団員のことを『コガネジェンヌ』ではなく『生徒さん』と呼ぶ。
筧はもったいぶるように咳ばらいをした。
「……夏雲組の一条颯様です」
「……いいご趣味ですね!」
「恐れ入ります」
千春は贔屓にしている冬空組以外の公演にも足を運んでいる。夏雲組の一条颯はナイト役の中でも躍動感のあるステップが魅力的で、一度は踏まれてみたいというヅカオタを日夜量産している。