おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
ウェディングドレスに一苦労している千春とは対照的に、香月は涼しい表情をしていた。
今日の香月はどの花婿よりもタキシードが似合っていた。後ろにさっと流しただけのヘアスタイルだが、端正な顔立ちがより強調されていて、映画俳優のように素敵だった。
「あとはこのチャペルと、スタジオ撮影だけだからもう少しだけ頑張れ」
「うん……」
スタジオ撮影には二人の両親も呼んであった。結婚の記念に六人で写真を撮ってもらう予定だ。
やっとの思いでチャペルでの写真を撮り終えた二人は、迎賓館内にあるスタジオに向かった。
スタジオの前には一張羅を着こんでいる二人の両親が既に待っていた。
「ちゃんとした写真を撮るなんて、いつぶりかしらねえ」
「千春の成人式の時以来かな」
スタジオの中に移動する最中、父と母は嬉しそうにそう話していた。香月の言う通り、写真を残して置くのも悪くなかった。
加賀谷家、柳原家、そして両家合わせての記念撮影が終わると、この日の撮影はすべて終了となった。
「終わったあ……!」
朝八時から三時間も動きを制限されていた千春は圧倒的な解放感に思わず万歳した。あとは着替えて帰るだけだ。
「二人のお祝いをしようと思ってお寿司屋さん予約してあるのよ」
「好きなだけ食べていいわよ、千春ちゃん」
「よっしゃ!回らない寿司だ!お腹空いた!」
晶子と珠江の気遣いに千春は大喜びした。
お腹がポッコリ出た写真になっては困ると、朝食も少ししか食べられなかったからだ。
「我々は先に家に戻るから、二人はゆっくり帰り支度しなさい」
「わかりました」
「よろしく頼むね、香月くん」
千春の父、徹はそう言うと香月と固い握手を交わした。