おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
気合十分で千春が向かったのは東京黄金塚劇場の最寄り駅である日比野駅だ。大きく開けた駅前広場で目当ての人物の姿を探していく。
どこにいるのかと視線を巡らせていると、デパートのショーウインドウの前に、一際身長の高い細身の女性が立っていた。
「芽衣さ~ん!」
千春が大きく手を振りながら駆け寄っていくと、女性はスマホを眺めるのをやめバッグにしまった。
「千春ちゃん!久しぶり!」
香取芽衣は千春より三歳年上のヅカオタ仲間だ。普段は高層ビルにある外資系の証券会社で働いているそうだ。芽衣は帰国子女で英語はもちろん、ドイツ語やフランス語にも精通している。いわゆるバリキャリというやつだ。
生まれも育ちも職業も異なる二人はSNSで知り合った。黄金塚関連の情報をSNSで発信していた千春に芽衣からメッセージが届き、そのまま意気投合。二年ほど前から一緒に観劇へ行く仲になった。
「もう今日が楽しみで楽しみでしかたなかったよ!」
「私もです!なんたって……」
二人は互いにキラキラと目を輝かせた。
「星川恵流様の三年ぶりのルードリヒ!」
「星川恵流様の三年ぶりのルードリヒ!」
二人の声は見事にはもり、学生のようにきゃっきゃっと手を取り合ってはしゃいだ。同じ星川恵流を推す者同士、ルードリヒの再演を喜ばないはずがない。
普段はヅカオタオーラを抑え(?)オタクのディープな一面を隠している千春だが、芽衣の前では遠慮なしにはしゃいでしまう。同世代かつ同じ熱量のヅカオタと知り合うことができるなんて、インターネットの世界は偉大だ。