おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
今か今かと待ちわびているとアナウンスが始まり、舞台の幕が上がる。
『真夜中のルードリヒ』はヒーローである『ルードリヒ』とヒロインの『アイラ』による儚くも美しい献身的な愛を描いた作品だ。
貴族の家に生まれた病弱なアイラと、その主治医であるルードリヒ。二人は互いに心惹かれ合うのだが、アイラの身体を蝕む病の進行は止まらず、将来を悲観したアイラはルードリヒを突き放してしまう。
しかし、ルードリヒは献身的な愛を貫きアイラを支えていくのだ。
「アイラよ。貴女を愛している」
「ええ、ルードリヒ!私も貴方を……」
物語は終盤を迎え、命がけの手術に挑むアイラと執刀医のルードリヒが今生の別れになるかもしれないと、互いの想いを伝え抱擁するシーンに突入した。
劇場にはシクシク泣き出したり鼻をすする人が大勢いたが、千春はひとり冷静だった。
いつ死んでしまうか分からないアイラに、なぜルードリヒはあれほど一途な愛を捧げられたのだろう。千春には何度、ルードリヒを観劇しようと未だに答えを見つけられないでいた。