おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

 閉演後、二人は最寄りのカフェに立ち寄り、興奮冷めやらない内に互いの感想を語り始めた。
 
「素敵だったね~!さすが恵流様だったわ!」
「生で見るとやっぱり違いますよね!千穐楽(せんしゅうらく)まで通わなくっちゃ……!」
 
 この日初演を迎えた真夜中のルードリヒだが、千春はあと二回見に行く予定でチケットを押さえてある。

「いいな~!私も仕事がなければもっと通いたいよ……」
「でも、暫くは節約生活ですよ」
 
 千春のように何度も劇場に足を運べばチケット代と交通費は馬鹿にならない。それに加えてグッズや円盤代を合わせれば、千春のお給料は羽が生えたようにあっという間に空へ飛んでいく。

 芽衣のように高給取りで好きなだけ趣味にお金を使うか、千春のように薄給でも趣味に使う時間を増やすかは一長一短である。

「私さあ、今回リリー役の生徒さんも結構気になってるんだよね……」
「私です!声が伸びやかで素敵でしたよね!?」
「次はもっと良い役もらえそうだよね?期待の若手!」

 二人は注文したパスタランチを食べ終えた後も、ドリンクをおかわりし、今回の演目の感想を話し続けた。観劇はその後の感想合戦までがセットだ。

「ねえ、もう一軒行かない?パンケーキの美味しいカフェがあるんだけど……」
 
 芽衣から二軒目に誘われ喜んでお供しようと思ったその時、スマホに香月からメッセージが届いた。
 
『ちぃ、まだ劇場の辺りにいるのか?遅くなるなら迎えに行く』

 千春は思わず、うげっとうめいた。
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