おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「結果は?」
「いつも通り、異常なし」
「そう、良かった」

 香月は安堵し、息を吐いた。
 性交の良し悪しについて佐久間に聞いたことはあえて伏せた。回答を伝えたところで香月を困らせるのは目に見えていたからだ。
 
「診察も早く終わったことだし、どこか行くか?ほら、新しい靴が欲しいって言ってなかったか?」
 
 香月が千春のご機嫌を取ろうとしているのは明らかだった。千春だって本音を言えば香月が迎えに来てくれて嬉しい。しかし、それを素直に言ってしまえば香月の思う壺だ。ここは、心を鬼にしてそっけなく振る舞うのが正解だ。
 ツーンと澄ましてすげなく扱うと、香月は見るからに焦り始めた。

「ちぃ……」
 
 弱々しく話しかけられチラリと香月を見れば、眉をハの字にして困り果てていた。まるで飼い主を見失った迷子の仔犬のようだ。この顔をされるとてんで弱い。
 
「……行く」

 渋々返事をすると、香月は嬉しそうに微笑んだ。
 どう足掻いても香月に世話を焼かれてしまうのが千春の宿命らしい。
 
「隣町のショッピングモールでいいよな」

 行き先が決められるとエンジンがかけられ、車がゆっくりと走り出していく。
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