おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
思い返してみれば、結婚してから二人きりでゆっくり出掛けるのは初めてのことだった。
そう思うだけで、なんの変哲もないショッピングモールが一瞬にしてデートスポットに変わっていく。
香月の運転する車は程なくして、目的地に到着した。
ファミリー層に人気のショッピングモールは休日ならば子供連れでごった返しているだろうが、この日は平日とあって空いていた。
エスカレーターに乗り、婦人靴のお店がある三階に向かう。千春好みのお店を物色していき、何足か試着を重ねていく。
「ねえ、香月くん。こっちの靴とこっちの靴、どっちがいいかな?」
千春はスクエアトゥのネイビーカラーのパンプスと、ポインテッドトゥのホワイトのパンプスのどちらを購入しようか悩んでいた。
「両方買えばいいだろ?」
「えー。お金ないよ」
選択を委ねたのは単なる気まぐれだ。参考程度で他意はなかったが、香月からは予想外の申し出があった。
「ちぃが買わなかった方を買ってやるよ。何事もなく検査が終わったお祝い」
「これぐらいでお祝いしてたら、直ぐに破産しちゃうよ?」
「ははっ。それはぜひとも破産させて欲しいな」
香月は財布からクレジットカードを取り出すとお会計を済ませ、本当に千春が選ばなかった方のパンプスを購入してしまった。
「ありがと……」
「ん」
香月はボソボソとお礼を言う千春の頭をクシャリと撫でた。こういうところがたまらなく気障だ。