おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
家に帰る途中、車の中は例の温泉宿泊券の話題で持ちきりだった。
「どうせなら二等の空気清浄機が良かったよな」
「あのねえ……そもそも当たるのが凄いんだからね!」
賞品を選り好みするなんて贅沢者め。千春なんて参加賞のポケットティッシュぐらいにしか縁がないというのに。
人徳の差か?それとも無欲の勝利?
「宿泊券はちぃにあげるよ。友達と行ってきたらどうだ?」
「えー!?香月くんが当てたんだから香月くんが使いなよ」
「野郎同士で温泉旅行に出掛けて何が楽しいんだよ」
その時、千春の頭に名案が浮かんだ。ポンと手を打つ。
「そーだ!珠江おばさんにあげようよ。温泉好きだもんね」
帰る前に香月の家に寄り、珠江に福引が当たったことを報告する。
驚く珠江に当たった旅行券を渡そうとすると、苦虫を噛み潰したような渋い顔で受け取りを拒否された。
「なーに言ってんのよ。二人で行けばいいでしょ?新婚旅行にちょうどいいじゃない」
「俺達には仕事があるだろ」
「一日ぐらいどうにかなるでしょ?ね?お父さん、いいわよね?」
珠江はソファに座りゴルフクラブを布で磨いていた洋介に話を振った。
洋介はヘッドの汚れに目を凝らしながら、うーんと唸った。