おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「夕飯まで時間があるし、先に風呂に入るか?」
露天風呂の衝撃から醒めないうちに、背後から香月に声を掛けられた。
風呂という単語にドキンと心臓が跳ね上がる。まさか香月の方から露天風呂に誘われるなんて……。まだ心の準備が何もできていないのに!
(お、お風呂くらい……!いいい、一緒に入って当然よね……!?ふ、ふふふ、夫婦だし!)
千春の混乱はピークに達していた。カチンコチンに固まった千春を尻目に、香月は客室の中から浴衣とタオルを探し当てた。
「大浴場は一階みたいだぞ」
はいと浴衣とタオルが渡され、千春は目をパチクリとさせた。
「あ!?そう、な、んだ……」
声のトーンが徐々に下がっていく。香月は最初から客室についている露天風呂ではなく、大浴場に行くつもりで千春を風呂に誘っていたのだ。
……なんて恥ずかしい勘違い。
千春はボストンバッグから着替えを取り出す振りをして、真っ赤に染まった顔を隠した。
(やらかしたっ……!)
一緒に風呂に入るところを想像していたことが香月にばれていませんように。
千春は祈るような心地で香月の後をついていったのだった。