おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
二人が別れた二十分後。
千春は女湯の暖簾を再びくぐり、長椅子に座る香月と合流を果たした。
風呂上がりの香月はえもいわれぬ色気を漂わせていた。
浴衣の合わせからのぞく湿気を含んだ肌が色っぽくて、目のやり場に困ってしまう。
「随分と早かったな」
「温泉には浸からなかったから……」
「どうした?楽しみにしてただろう?」
温泉に浸からなかった理由を問われると、千春は一拍置いてから答えた。
「そ、その……。女性特有のあれが……きてしまって……」
もじもじと月経を申告する姿の間抜けなことといったらなかった。
「ああ、そういうことか。悪かったな。そんな日に旅行に連れてきて」
「あ、ううん。こっちの予定日がずれただけで香月くんは全然悪くないから」
「身体は平気か?」
「毎月のことだから……」
身体を気遣われると余計に気まずさが増していく。
月経周期の計算は間違っていなかったのでたまたまだろうが、なにも新婚旅行中に訪れなくてもいいのにと沈んだ気持ちにさせられる。
温泉を堪能できなかったからだけではない。月経がきたということは自ずと初夜もお預けとなるからだ。