おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「ちぃはどっちで寝る?」
「私はこっちにする」
千春は二つ並んだローベッドの内、窓際のベッドにダイブした。
もぞもぞと布団の中に潜り込んでいき、顔だけ出す。顔を横に向け隣のベッドを見れば、香月も同じように布団をめくり上げていたところだった。
普段は枕を並べるどころか、家も別々なわけだけど、今日ほど一人寝がこたえそうな日はない。
「香月くん……ごめんね」
「なにが?」
「ううん。なんでもない……」
千春は平静を装うと香月に背を向け目を瞑った。
枕元のスイッチが操作され、照明がひとつひとつ消されていく。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
二人がそれぞれ床につき会話がなくなると、耳が痛いほどの静寂の中に枝の落ちる音ばかりが聞こえてくる。
(心配することなかったな……)
千春は自嘲気味に口元を歪ませた。
月経がきたことを伝えても、香月はピクリとも表情を変えなかった。
つまり……最初からその気はなかったということだ。
香月にとって結婚は幼馴染の延長線上にあるもので、その先には行くつもりはないんだと実感した。千春はあくまでも世話の焼ける幼馴染であり、愛着はあっても愛情はない。
キスをされたことだって、普段見慣れないウェディングドレス姿にあてられたと考えれば、なんらおかしくはない。
次第に自分で自分を納得させることがやるせなくなってくる。
(ねえ、香月くん。私はいつまであなたの『特別』でいればいいのでしょう?)