おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「危なっかしいというか……目を離したらひとりでどこかに行ってしまいそうな気がするんだ」
「やだなあ……。迷子になんてならないよ?」
「どうかな?ちぃは行動力があるから、その気になったら俺をおいてどこへでも行きそうだ」
「香月くん……?」

 香月を仰ぎ見ると、焦茶色の目が微かに揺れていた。
 切なげにどこか遠くを見る瞳に、きゅうっと胸が苦しくなる。どこへも行ったりしない。ずっと香月の傍にいると、今すぐ叫びたくなる。
 
(あ……)

 香月は千春の顔を両手で包みこんだ。じいっと見つめられると、これから何をされるのか千春にもわかった。
 徐々に顔を近づけてくる香月に応えるように、目を瞑る。待ち望んでいた瞬間はすぐに訪れた。
 
「ふ、あ……」
 
 柔らかな唇が何度も往復し、歓喜で心が震えた。千春はたまらず香月のシャツを掴んだ。
 愛しさがどうしようもなく膨らんでしまう。……こんなの間違っているのに。
 
「うわっ!」

 ……悲劇は香月の悲鳴と共に突然訪れた。
 キスに夢中になっていた二人に大波が襲いかかり、残念なことに香月のズボンがふくらはぎまで海水に浸かったのだ。
 千春はぷっと吹き出した。

「あははっ!濡れちゃったね!」
「着替え持っててマジでよかった……」

 しみじみ呟く香月に千春は腹を抱えて笑い出した。


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