おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
(また……キス……しちゃった……)
公衆トイレでズボンを履き替えている香月を車の中でひとり待つ千春は、キスの余韻に浸りながら窓の外を眺めていた。
はあっと息を吐き、窓に向けゴツンとやや強めに頭突きをかます。
額の痛みはなんの躊躇いもなくキスに応じてしまった自分への罰だった。
「なにやってんだろう……」
分不相応なことは望まないと決めたのではなかったのか。新婚旅行に行くと決まってからというもの、らしくない行動が続いていた。
新しい下着を用意したり、初夜を期待するなんて本来はあってはならないことだ。キスなんてもってのほかだ。
「お待たせ」
着替えを済ませた香月が車に戻ってくると、千春はようやく我に返った。
「他にどこか寄ってくか?」
香月の問いかけに千春は小さく首を横に振った。
「……早く帰ろう」
今はただ、一刻も早くいつものおとなりさんに戻りたかった。