おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「あの……なんで香月くんは女の子の服を着てるんですか……?」
「ほら、私って昔から黄金塚のファンでしょう?香月に黄金塚のパンフレットやらブロマイドを見せてたら『僕もこういう服が着たい』って言うから試しに着せてみたら思いの外似合っちゃってね……」

 ……いや、多分無理やり言わされたんだろうな。

 レースとフリルが盛り盛りに縫いつけられたゴージャスなワンピースは明らかに珠江の趣味だ。その証拠に香月の頬が引き攣っており、大きな瞳は不機嫌そうにこちらを睨みつけていた。
 
「ねえ、もし香月と千春ちゃんに娘が生まれたらコガネジェンヌに育てる気はない?」
「お、おばさん!?」

 珠江から孫を期待され、千春は色々な意味でうろたえた。一体、なにを言い出すんだ!

「ふふっ冗談よ!あ、その写真は千春ちゃんにあげるわ」

 珠江は冗談めかして笑うと、詰め終わった段ボールを玄関へ運びに行った。

「もうっおばさんたら……!他人事だと思って……!」

 文句を言ってみたものの……千春は写真に視線を落とした。
 例えば、この女装した香月そっくりの幼女が成長し、コガネジェンヌとして舞台に立つとなったら。

 ……推せる。推せてしまう!

 千春はくぅっと悶えた。それは、ヅカオタの悲しい性だった。

 千春は香月に見つからないうちにこっそり写真を自分のバッグの中にしまった。くれるというのなら、ありがたく頂戴しよう。祭壇に飾る物がまたひとつ増えてしまった。

(まあ、子供ができるような行為は一切してないんだけどね……)

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