おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
(香月くんは一体何を望んでいるの……?)
二度のキスはもはや単なる気の迷いでは済まされない。夫婦なのだから多少の触れ合いがあるのは当然といえば当然だけれど……。
愚かな恋心は香月に愛されているのではないかと、あらぬ夢を見てしまう。
視線が絡み合うと優しく目がすぼめられ、たどたどしい息継ぎはすべて香月に掬い上げられる。
荒々しいのにどこか切愛が滲む口づけに、封じ込めていた想いが今にも溢れてしまいそうになる。続きを期待して、甘く焼ける胸を掻き毟るしかない。
一緒に住むことが嫌なわけではない。一緒に住んだ結果、自分の気持ちがバレてしまうのが怖い。
そのくせ、どんな形でも香月に求められたら、すすんでこの身を差し出してしまう。矛盾していると自分でも思う。
香月にとって千春が『特別』なように、千春にとっても香月は『特別』だ。ただし、両者が抱いている感情はかけ離れている。
千春が欲しいと望んでいるものはひょっとしたら永遠に手に入らないかもしれない。
(本当にこれから一緒に暮らしていけるの?)
どれだけ自分を律しても、千春は性懲りもなく香月に恋焦がれてしまうのだ。