死神のマリアージュ

それでいいじゃん

「人が生きていく上で、“食べること”は欠かせないでしょう?そして“食べたい”という食欲は、人が必ず持っている原始的な欲求よね。でも人って欲張りなもので、ただ空腹を満たすためだけの食事をしていても、だんだんつまらなくなってくるようにできているの。“こういうものが食べたい”とか、‘もっと美味しいものが食べたい“という欲を抱くようになる。その欲を抱くことは決して悪いことではないのよ。むしろ、とても幸せなこと。もし人が、この欲求を最初から誰も抱くことがなかったら、別にお料理できなくてもいいでしょう?”とりあえずあるもの“で、”適当に“食事を済ませればいいのだから。でもそうなると、”食べる“という行為は、とても味気ないものになってしまうわ。人が生きていく上で”食事“は欠かせないことなのに」
「ホントだ~」
「それに、“とりあえず”で食事が済むのなら、お料理を教えるというワタシの仕事は成り立たなくなるし」
「確かに。それなら別に料理できなくてもいいもんね」
「そのとおり。でもね、今でも世界のどこかでは食べるモノがなく、飢えで苦しんでいる人もいる。そういうところでは、ワタシの仕事は需要がないから成り立たないの。だからワタシ、日本で生まれて暮らしていることに、とても感謝しているわ。それだけじゃなくて、ダーリンと悠里くんのおかげで、ワタシは食べたいと思うものを食べることができる環境で生きている。ありがたいことよね。そして、自分が作ったものを“美味しい美味しい”と言って食べてくれる人たちがいるって、とても幸せなことなのよ。あらごめんなさい。話がそれちゃったわね。見たところ、あなたたちは全員、ただ空腹を満たすための食事ができればいいというレベルの暮らしはしていないわね」とユキオくんが言うと、私たち全員が頷いた。
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