死神のマリアージュ
「俺の父は画家だったんだ。風景が専門だった。ガキの頃は親父と一緒にあちこち行ってたなあ。ただ、なぜか絵を描く才能は、三人いた兄弟のうち悠里だけ受け継いだみたいで、俺はてんで才能がないんだよな。だが絵を描く才能がない俺でも、この絵はいいって分かる。だからどこにも売る気はない。それだけ気に入ってんだ」
「・・・なんか実際、そこにいるような気になる。ラベンダーの香りが漂ってきそうな」
「“ただいま”と“おかえり”って言いたくなる」
「まーが言いたいこと分かる。なんか、懐かしい気持ちが湧いてくるな」「うん」
「絵はこのあたりの壁にかけてるのと、そこのテーブルにはお父さんがスケッチしている絵がちらほら置いてあるから。二人とも好きなように見てね。触らなかったらオッケーだから。じゃ、悠希叔父さん行こ」「え?」
「ほらっ、二人だけにしてあげて」
「あ?ああ」

すでに二人は行ってしまったことにも気づかないまま、私は絵を見たまま「うん。ありがと、よるちゃん」と言っていた。

「ねえ忍」
「ん」
「美術館ってこういう感じなの」
「絵とか作品は、ここよかもう少したくさんあるとこが多いけど、まあここもちょっとした美術館って言えるレベルだな」
「やっぱり」
「よるっちの父さんも、絵を描くのがなかなか上手い」
「そうだね」
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