死神のマリアージュ
私には絵を描く才能はないし、美術館も基本「人が集まる場所」だから、今まで一度も行ったことがない。
そんな私でも、よるちゃんのお父さんやお祖父さんが丁寧に描いた絵やスケッチは、「いい」と思った。
うまく言えないけど(絵を描く才能がないせいか)、心が温かくなるような絵ばかりだ。

「たとえば“美味しそうに見せる”ために、あなたはこのリンゴをどう描きますか?色?ツヤ?ハリ?形?それとも他との対比で表現しますか?小説は文章だけでそれを表現しなければいけません。でも漫画は、文字や文章に加えて絵でも表現することができます。時には色も加えることができます。それでも平坦な世界で、動きや音声、感情や微妙な気持ちをどこまでリアルに表現できるのか。自分がこういうことを伝えたいと思うとおりに表現できているのかを常に問いかけながら描き続けてください」

突然呟くように話し出した忍の横顔を、思わず私は見た。

「これ、きよみ女史にいっつも言われるセリフ。厳しいけど分かるんだよなあ。自分が好きなことを究めたい、自分が好きなことで突き詰めたいって気持ちは。俺にとって絵とか漫画を描くって、それくらい好きなことなんだ」
「知ってる」
「探究心は尽きないし、奥が深い分野だし。言ってみればまーにとっての石とか料理好きと同じだな」
「そう。・・・私が料理を作るのは、みんなが美味しいって言って食べてくれることが嬉しいのはもちろんだけど、私は料理することでみんなの役に立ちたいと思って・・ううん、みんなの役に立てば、家にいてもいいんだって思ってるのかもしれない」
「は。今のは全っ然おまえらしくない発言だな。もしかして、真希おばさんが亡くなったのは自分のせいとか思ってんの」
「思ってないよ。お母さんが亡くなったのは、本当に私のせいじゃないって知ってるし。ただ・・・」「ただ、何」と忍に促された私は、一旦息をふぅと吐いた。
< 132 / 359 >

この作品をシェア

pagetop