死神のマリアージュ
「おっと!ごめんね!」「すみません」
「俺が前をよく見てなかったから・・あれ。神谷さん?大丈夫?痛いところはある?怪我してない?」
「あ・・綿貫さんだ。私は大丈夫です。それに私が前を見てなかったからぶつかってしまったんです。すみませんでした。綿貫さんは大丈夫ですか」
「うん。俺は全然平気だから心配しないで」と綿貫さんは言うと、私の両肘あたりからさりげなく手を離した。

綿貫さんにはこういう風に相手を不快にさせないだけじゃなくて、気づかってくれる優しさがある。さっきの先輩たちとは全然違って。

もし私が綿貫さんと面識がなくて、さっきみたいにぶつかってしまっても、綿貫さんならきっと今と同じような対応をしてくれるはずだと簡単に想像できる。

「それより珍しいよね。こんなところで神谷さんと遭遇するのは」
「あの、石をオーダーしたくて」
「じゃあ俺を探してたのか。ごめんね、来るの遅くなって」
「いえっ全然。私が学園に来るのが早いんです」
「ここは邪魔になるから廊下に行こうか。そのほうが人も少ないし」
「はい」

人が多い場所が苦手な私を気遣いながらさりげなく人が少ないところへ誘導してくれる綿貫さんは、さすが「セレナ」の敏腕秘書だと感心していた。
けど・・なんだろ、この「あれ?」って感じ。違和感?かな。
俗にいう「ヘンな感じ」がしたのも確かだ。
それに・・・「神谷さん?」。
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