死神のマリアージュ

ほかに好きな人がいるからキミとはつき合えない

「きよみ女史のお弁当は茶色が続いてるね」
「致し方ありません、神谷雅希女史。ただいま“あさりの佃煮のとき”なので」
「ん?“あさりの佃煮のとき”?って何?きよみ女史の食ブーム?」
「かれこれ二年ほど前から私が黄泉の国のヨミと書き、そして清い女と書いてキヨメと読む、黄泉清女というペンネームで漫画を描き、作品を発表していることは、以前お話ししたことがありますね?佐渡真珠女史」
「うん。“冥途カフェ 三途ノ川”でしょ!早速読みました!絵に躍動感があって、表情もリアルでとても上手なのはもちろん、ストーリーがとっても面白いです!“冥途”カフェっていうくらいだし、地獄好きなきよみ女史が描く漫画だから、てっきりホラーモノかと思ったんだけど」
「全然怖くないでしょ」
「そうなの!怖いどころか最後のシーンはいつもじいんとくる。心温まるストーリーだよね。グイグイ惹きこまれていく感じで。早く次のお話しが読みたいなあ」
「どうもありがとうございます、佐渡真珠女史。私にとって“グイグイ惹きこまれる”は、地獄嬉しい誉め言葉です。それでただいま、最新話を描いている最中でして」
「まさか最期の晩餐に“あさりの佃煮”が出るの?」
「その通りです、神谷雅希女史」
「それは大変だね、きよみ女史。ほら、栄養が偏らないようにたまごやき食べて」
「ありがとうございます、神谷雅希女史。あさりの佃煮はまだマシなほうです。それにようやく納得のいく“最期のレシピ”が出来上がりましたので、あさりの佃煮にまみれた拷問攻めにあうことはもうありません。そこで神谷忍氏」
「ん?」
「今週末もアシスタントをお願いしたいのですが、ご予定は?」
「ごめん。土曜日は朝から夕方くらいまで予定入ってしまった」と忍は言いながら、きよみ女史にミニトマトを1コあげた。
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