先生の一途な愛情

「この日は僕と一緒に居ましたよ彼女」
「は?」
「だから、ほら。この写真。この日付でしょう? 僕のゼミ室でお菓子食べてる後ろ姿ですけど」

 彼氏のフリをしてくれてる人が証拠と言わんばかりに、スマホの写真を突き出す。確かに私も背格好の似た女の子が写っていた。

「え、じゃあ、本当に」
「最初から言ってた通りです。私、既婚者と不倫とかは絶対に嫌なので」
「この子じゃないなら、他にもいるって事よね……あなた?」

 怒りの矛先が私から、先生へと移り変わる。その途中で冷えてきた体が悲鳴を上げた。

「はっくしゅん、あ、すいません、あまりにも寒くて」
「ごめんなさいね、私が掛けてしまったから」
「あぁいえいえ。大変ですね。私たちはお先失礼します」

 謝りながらも怒りは収まらないらしく、奥さんは明月さんの手を握りしめていた。爪が食い込むほどに。隣の彼氏のフリをしてくれた人とお店を出れば、ありがたいことに太陽が登っていて服をすぐに乾かしてくれそうだった。

「ありがとうございました。助けていただいて」
「いえ、こちらのハンカチよければお使いください」

 差し出されたハンカチはオシャレなチェック柄だった。受け取って濡れた髪を拭う。全てを拭き取れはしなかったが、少しマシになったようだ。

「ありがとうございます」
「あぁ連絡先交換しましょうか。洗って返していただけますか?」
「あ、はい、そうですよね」

 スマホ上で連絡先を交換して、顔を上げる。見上げた顔はどこか見覚えがあった。記憶を辿るも思い出せそうにない。見上げるような背の高さに、シンプルだけど、おしゃれに見える黒いパンツ。黒縁のメガネすらオシャレだ。見れば見るほど、素敵な男性だ。
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