先生の一途な愛情
先生のオススメのお店は、暖かい灯りのカフェだった。所々に置かれたガラスのランプがオシャレで、素敵な空間。
「ルミさんは何にしますか? 僕のおすすめはココアとこのマシュマロセットですね」
見た目からは想像つかない可愛らしいセットに、くすりと笑みが溢れる。
「甘党なんです僕。意外がられるんですけど、ルミさんも甘いのがお嫌いでなければ」
「好きです」
間髪入れずに答えた理由は、心が惹かれているからかもしれない。抗えないくらいには、好きになり始めてた。私の悪い癖だけど。
「ルミさんが、好きそうだなと選んだのでよかったです」
はにかむように微笑むから、胸の中から愛しさが募っていく。
届いたココアは生クリームも乗っていて、とても美味しそうだ。一口飲めば、先生の手が私の口に伸びてくる。
「こんなことを言ってしまうと困らせると分かっているんです。でも、黙ってることはできなくてすみません。好きです、誰よりも」
私の口の周り付いた生クリームの髭を掬い取って、口へと運ぶ。どうして、こんなに一途に優しい目で私を見てくれるのか分からない。先生という肩書きに惹かれてるのは確かなのに、逃げ出したいほどの恐怖すら感じている。
「なんで」
「まぁ、そうなりますよね」
先生は困ったように眉毛を下げる。切なそうな視線が痛々しい。ココアは柔らかい甘さで美味しいのに、喉に張り付く。
「ルミさんは、僕の何て言えばいいんでしょうね。覚えてませんか?」
「何をですか?」
「坂本伊織、という名前を」
メッセージアプリの登録名は伊織だった。聞き覚えのある言葉に、首を捻る。どこで聞いたのだろうか。
「覚えてないですよね」
そう言ってココアを口に運ぶ姿があまりにも、哀愁が漂っている。口寂しさをマシュマロで誤魔化せば、ふわふわの柔らかいマシュマロは口の中で溶けていった。
「ごめんなさい」
「あの日が初めましてじゃないんですよ。お兄さんのお友達だったので、僕」
そこまで言われて、薄らぼんやりと若かりし頃の伊織さんが脳裏に過ぎる。メガネの学ラン服の物静かな人。
「話したこともほとんどなかったですし、覚えてなくても当たり前なんですが」
「うっすら記憶にはあります、いつも本片手に兄の部屋にいた」
「それです!」
今までのトーンと違う声に、びくりと肩が揺れた。でも、話したこともほとんどないのに私にこんなに優しくしてくれる理由が分からない。