先生の一途な愛情
「ルミさんが、僕の読んでた本に興味を持ってくれて……一度本をお貸ししたのも覚えていますか?」
言われてみれば、当時好きだった担任の先生が国語の担当だった。そして、オススメとして挙げていた作家の本を、伊織さんが読んでいた。
「うろ覚えですが」
「返ってきた本に、手紙を挟んでくれたんですよルミさん。こんなところが面白くて、このキャラが好きでしたという感想と、感謝の手紙」
昔から私は手紙を書くのが好きだった。文字を綴る感覚が好きで、読書感想文のような手紙を挟んだのだろう。記憶にはあまり残っていないが、私ならやりそうだ。
「あれが、妙に嬉しくて。好きになっていました」
伊織さんなあまりにも大切そうに話すから、どくんどくんっと胸の鼓動が主張してる。肩書きだけでなく、伊織さんのことを好きになりそうな予感を。
「言えなくてずっと苦しかったんです。あの日困ってるルミさんを見つけて気づいたら声を掛けていました。迷惑でしたかね」
「いえ、すごい助かりました。あの時は」
本心だ。でも、手紙一枚で私を好きになってくれたなんて信じれるほど、今は脳内ゆるふわでは生きていない。疑り深い目でつい、伊織さんを見つめてしまう。
「信じなくてもいいんです。時々お会いできませんか? 僕がルミさんを好きなことは、本当なので。嫌なことは絶対しません、あ、手を握ってしまったのは嫌でしたか?」
理路整然という感じで話していたのに、急にワタワタと慌てる姿に可愛いなんて感じていた。もう、抗えそうにない。
時間をくれるという伊織さんの案に頷きながらも、私はもう心を奪われていた。