先生の一途な愛情
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伊織さんとのデートは回を重ねるごとに、楽しさを増していった。今日のデートもとても楽しみで、つい服装にもメイクにも気合が入る。
前髪を相変わらず気にしながら、撫でて直す。
「お待たせ、ルミちゃん」
後ろから抱きつくように駆け寄ってきた伊織くんをそのままに首だけ振り返る。
「待ってない」
「すげぇ今幸せかも」
噛み締めるように私の肩で深呼吸をする。伊織くんをもう突き放せそうにはない。あまりの甘さに胃がやられそうな日もあったけど、今日こそは伊織くんに伝えよう。私も、伊織くんのことが好きだよって。
やけに熱い伊織くんの息に、私まで熱が上がってしまいそうだ。
「ルミちゃん、今日は水族館でもどう?」
伊織くんが離れたタイミングで、向き合う。妙に赤く染まった顔。
「熱、ある?」
「ないない」
否定して離れる伊織くんの手を掴んで、おでこを触る。触っただけで分かる熱に、驚いて目を見つめた。いつもよりほんのり潤んだ瞳、忙しなく繰り返される呼吸。
「帰りますよ」
「いやです」
「なんで子供みたいな駄々を今こねるんですか」
「ルミちゃんと会える日は限られてるんです」
懇願するように私の腕を掴む力は弱々しい。いつもの自信満々なピシッと伸びた背筋も、今日はふにゃふにゃだ。
愛しい気持ちが胸に充満して、腕を引っ張る。
「家どこですか」
「いやです」
「看病しますから、行きますよ」
近くでタクシーを拾って伊織くんを押し込む。続いて乗り込めば、離さないと言わんばかりに私の右手を伊織くんは握りしめた。
「放置しませんから」
「行かないでください」
「ちゃんと休みましょう。またデートしますから、ね?」
そう言って背中をトントンっと優しくさすれば、ふにゃりと顔を崩れさせて私の肩に寄りかかる。春のような匂いに、なぜか心地よさを感じた。