先生の一途な愛情
伊織くんの家は、シンプルで整っていた。私の部屋の方がもしかしたら汚いかもしれない。
「伊織くん、ベッドに寝て」
ベッドまで肩を貸したは良いものの、伊織くんはまだ駄々をこねて私の肩を離そうとしない。
「帰らないから」
「いやです」
さっきから、いやですしか言ってないな伊織くん。弱ってて幼児化してる姿すら可愛く思えるのは、もう私の負けだろう。
ベッドに無理やり寝かそうとすれば、襲う形になってしまった。
「ルミちゃん」
伊織くんの細い指が私の頬を這う。唇が触れそうなところで、伊織くんは止まった。
「移るんでダメです、帰ってください」
帰らないで、いやだ、行かないでとか言ってたくせに。急に冷静になったようで、布団に潜り込んで私に背中を向ける。
「帰りません」
「帰ってください」
「いやです」
逆転した言葉に、クスクスと笑いが溢れる。
「移していいですよ」
布団に腰掛けて伊織くんに話しかければ、布団から少しだけ伊織くんが顔を出す。
「だめです」
「伊織くん、私風邪ひきにくいんですよ」
「でも、だめです」
「今日から三連休なんですよね、あー有給も余ってたなぁ」
宙を見上げながら、わざとらしく呟く。伊織くんの腕が布団からにゅっと出てきて、私の頬にまた触れた。
「いいんですか」
「移せば治るなんて古いですけど」
言い終えるか、終えないかで、もう口は塞がれていた。
「好きです、ルミちゃん、何に変えても失いたくないくらい好きです。言ったけど、六年くらいずっと好きだったんです」