毒舌な航空自衛官は溺れる愛を捧げたい
「ずっとって、あんた航空学生だったのは二年前じゃない」
「で、でも完全に衰えたわけじゃないから大丈夫なの!」
私が何を言っても理解してくれなかったお母さんが、今は自ら分かろうとしてくれている。こんな嬉しいことはない。
「お母さん、わからずやじゃなかったんだね。昴さんが言ってたよ、お母さんはいい人だって」
昴さんの印象を上げたくて、それとなく盛って話してみると、お母さんは嬉しそうに微笑んだ。
……母のこんな笑顔は見たことない。なんだろう、この違和感。昼ドラで良くありそうな、ドッロドロに沼りまくっているアレ!?
「……ま、まさかお母さん、昴さんに恋したの!?」
せっかくお母さんに理解してもらえる日がきたというのに、絶縁しなきゃいけない運命なの!?と、一人頭を抱えていると、
「冗談言わないでちょうだい! お母さんはいつだってお父さん一筋よ。昴さんがあんたの旦那になるかもしれないなら、パイロットっていう職業も他人事じゃ済まないじゃない!」
――ドロ沼絶縁展開だけは免れることができたようだ。
久しぶりにお父さんとのノロケを聞きながら、リビングに入る。さっそく、テーブルの前に大量の本を並べた。そして、お母さんの興味が冷めないうちに、
「お母さん、昴さんの機体はこれだよ」
昴さんの機体、F-15を見せる。
「へぇ、白いのねぇ」
だが、思っていた以上に反応が薄かった。それもそのはず、今まで戦闘機パイロットを毛嫌いしていた母だ。すぐに好きになってくれと言う方が無理がある。
「うん。因みにこれが戦闘機パイロットのなり方の本だよ!」
今は少しでも興味を持ってもらえるだけでいい。分厚い本を一冊お母さんの前に置くと、「……こ、今度読ませてもらうわねー」と、さっきまでの意気込みが嘘のように冷めた顔をして席を立ってしまった。
やっぱりまだ早かったか……
机の上に並べていた本を一人片付けていると、
「果林、勘違いしないでほしいから言っとくわ。お母さん、今は戦闘機について反対してないからね」
夕飯のために、冷蔵庫から食材を出している母は、どことなく恥ずかしそうに私にそう告げて、食材をまな板の上で切り始めた。