眠れる森の王子は人魚姫に恋をした

雪の日

朝から降り出した雪は正午を過ぎても雨に変わらず、定時近くなってもしんしんと静かに降り続けていた。

長月(ながつき)さん、電車が動いているうちに帰宅してね。」

「はい。橋田(はしだ)さんこそ帰ってください。私は頑張れば歩いてでも帰れる距離なので…。」

「いくら歩いて帰れるからって転んで骨折するやつもいるから気を付けろよ~。」

橋田さんと共に帰り支度をしている杉山(すぎやま)さんが心配そうに声を掛けてくれた。

「長靴履いてきたので大丈夫です!杉山さんこそ転ばないでくださいね!」

私が勤めるのは大手化粧品会社P・Kメディカルの社員食堂。
ここに食事にやってくる社員たちは、降雪による交通機関の運休が発表されたので1時間前にはほぼ全員が帰宅していた。

「雪の影響で食材の納品が遅れるかもしれないから、念の為に業者さんへ確認しておいて。じゃぁ、お先に失礼するわ。」

(あや)ちゃんもサッサと帰れよー!」

それだけ言うと二人はコートを羽織り、荷物をまとめて社員食堂に隣接されているスタッフルームを出た。
ここは事務作業を行ったり、社食スタッフなどの休憩室を兼ねているのだが、他のメンバーは既に帰宅しており、私が最後の一人だった。

明日の納品予定の業者は3社あり、いずれもメールにて配送遅延をうかがわせる内容のメールが届いている。
今日、納品された食材はそもそも雪の影響を考慮して多めに発注していたので、明日納品がなくとも在庫的には問題はなさそうだ。

 これで大丈夫そうね。

PCの電源を落とすとデスク周りを片付けスタッフルームを出た。
 
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