眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
高層マンションのエントランスでタクシーから降りると『一緒に来い。』とそのまま腕を引かれた。タクシーの運転手さんが心配そうに私のことを見ていたが、『大丈夫です。』と伝えて帰ってもらった。

マンションの入り口を抜けエレベーターに乗り込むと彼は『PH』と書かれたボタンを押した。

2人きりのエレベーターで手は繋がれたまま…。

フラフラと隣に立つ彼はじーーっと見つめてくるので居心地が悪い。
なるべく目があわないように彼とは反対の方に顔を向けて立った。

玄関の鍵を開けるとそのまま市ノ川さんは廊下に倒れ込んでしまった。

「ほら、しっかりしてください。寝室はどちらですか??」

「……悪い。こっちだ。」

靴とコートを脱がせると寝室のベッドまで運んだ。彼はベッドに腰掛けると喉の渇きを訴えた。

「…水をくれ。冷蔵庫に水がある。」

「お水ですね、今、持ってきますね。」

キッチンへ向かい言われた通り冷蔵庫からミネラルウォーターを出すとシンクの横に見慣れた保温ボトルを見つけた。

 …こないだスープと一緒に渡したやつ。

お水と一緒に寝室に持って行き、保温ボトルをドアの横に置いた自分のカバンにしまった。

「市ノ川さん、お水です。」

『ありがとう。』と言い、水を流し込んでいた。

口の中がスッキリしたのか、再びベッドの上に仰向けになり手の甲を額の上に軽く置くとウトウトしていた。

「……そろそろ、失礼しますね。」

あんなに寒いところで眠っていたのだから、暖かいところにいれば直ぐに眠ってしまう。私はいない方が良い気がして立ち上がった。

「…まって。」

腕を掴まれた勢いで彼の上に被さるように倒れ込んでしまった。

「すみません。」

「フミ、行かないで…。」

「え?」

「俺のそばにいて欲しい…。」

ギュッと抱きしめられたまま市ノ川さんはゴロリと体勢を変えると天地が入れ替わる。

熱を帯びたような潤んだ瞳で見つめられると、そのまま顔が近づきゆっくりとキスをした。

彼の舌が静かに口の中に入り込むと、それが嫌じゃないと感じる自分に気づいて焦る。
心臓の音が三流映画のわざとらしい効果音の様に大きく聞こえた。

するとそのまズシリと重くなり私の上で眠ってしまった。
キスの余韻もあり暫く放心状態で天井を見つめていた。

 えっ?

 ちょっと!!

 眠ってる??

 てか、キスされた!

 さっきからフミって呼ばれてるけど、私、その人と間違えられてる??

 なんか、色々とあり得ないんだけど!!!

動かなくなった市ノ川さんを横にどかすと、落ち着かない心臓と共に荷物をかき集め、慌てて彼のマンションを出た。
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