眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
エレベーターは地下の駐車場で止まった。
…地下って初めて来た。
普段は1階の出入り口を使用するので地下なんて来る機会はない。きょろきょろ辺りを見回していると、いつの間にか目の前にピカピカな黒塗りの外車が停車した。
運転席から黒田さんが降りてくると、後部座席のドアを開けてくれた。まるでご令嬢にでもなった気分だ。
副社長と一緒に乗り込むと再び黒田さんは運転席に戻りレストランへと車を走らせた。
地下の駐車場から地上へ出るとあたりは日が沈んですっかり暗くなっていた。
年を開けてもなおクリスマスのイルミネーションがちらほらと残っており、微妙な輝きが街にはあった。
「さっきの同級生は西田って言ったっけ?同じ社食勤務か?」
静まり返った車内で副社長が聞いてきた。
「いいえ、P・Kメディカルの社員だと思います。IDには営業部と書かれてましたし。」
「営業か。……元カレか?」
「いいえ。」
先ほどは突然の告白に驚きすぎて言葉が出ずにちゃんと返事ができなかったが、西田くんと恋人の関係になるだなんてあり得ない。多分、恋人とは一番遠い場所にいた。
乗りなれない高級車と静かさがどうも居心地が悪い。何か会話をせねばと口を開く。
「先ほど、名前で呼ばれて驚きました。他の社員の方に私たちが深い仲と勘違いされてしまうので、揶揄うにしてもやめた方が良いと思います。」
「……あれは牽制だ。」
「牽制なんて必要ありません。私は副社長とはお付き合いするつもりはありませんし、お食事も今日が最後です。」
副社長は私の手を取ると優しくキスをした。
「じゃあ、西田と付き合うつもりなのか?あいつとならお前の言う環境が同じなのか?」
副社長が自分の方へと私の手をさらに引くと付けていたブレスレットがシャラっと手首からひじの方へと滑り落ちた。
母の遺品として渡された中に入っていたブレスレットなのだが、ダイヤモンドの様な石で作られた小さな花がふんだんにデザインされ、それを繋ぐ手首に絡みつく細い蔦のようなのゴールド部分が繊細で美しかった。アクセサリーなんて持っていないので、久々に今日の服装に合わせて付けてきた。
このブレスレットを見るなり副社長の声色が変わった。
「…このブレスレットは誰からの贈り物だ?」
「誰からのものでもありませんが。」
「そんなわけないだろ。環境が違っても高級品は別物ってか?」
「何の話ですか?」
「…お前、もしかして知らないでこのブレスレット付けてるのか?」
「このブレスレットは母の形見です。」
「母親は亡くなっているのか?」
びっくりした表情を見せる。そりゃ、20代前半の子どもの親ともなればまだ元気に働く人がほとんどだ。亡くなっているときいて驚くのも無理はない。
「…はい。未婚の母で身寄りもなく一人で私を育ててくれたのですが、私が小学生の時に交通事故で亡くなりました。このブレスレットは遺品の中にありました。」
「…そうか。このブレスレットは300万くらいするぞ。」
「えっ!?」
今度はこちらが驚かされた。
「ここの留め具にロゴが入っているだろ?florideという工房の印だ。高級宝飾店の職人がひたすら良いものを作るために集まった工房で、デザインから素材まで納得しないと作らない。オーダーでしかも紹介が無いと作ってもらえないんだ。」
「そんな高価なものだったんですね…。」
300万はするってことはこの石は全部本物のダイヤモンドってこと!?
今まではオシャレが必要な時になんとなく身に着けていたが、そんな話を聞いてしまったら緊張で手が震えてしまう…。
「父親には会ったことがあるのか?」
「会ったこと無いです。名前すら知りません…。」
「もしかすると父親からの贈り物かもしれないな…。」
「そうだと良いなと思います。」
未婚の母親なのだから、父親は不倫だったのかもしれないと思ったこともある。だけど、こんな高価なものを贈ってくれる男性に母は思われていたと考えると少し嬉しい気持ちになった。
「文への贈り物でなくてよかった。それを贈った男がライバルになると一筋縄ではいかないからな。」
「また、文って呼びましたね?」
「あぁ、好きな女性の名前を呼んで何が悪い。俺の事も副社長じゃなくて名前で呼んで欲しいんだけどな…。」
副社長の声が甘く優しい音に変わった。
私と副社長では釣り合わないと思いつつも彼に見つめられるとこのまま流されてしまいたいという気持ちが勝ってしまう…。
……だめ。
……私なんかが。
俯いて視線を逸らすも頬に大きな手が添えられ再び顔を彼へと向けさせられる。
ゆっくりと副社長の顔が近づいて、これはこのままキスをされる。と覚悟を決める。
「ふっ…副社長、到着しました。」
車はホテルのエントランスに停車され、ドアマンが車のドアの前で待機していた。
「黒田てめぇ……。」
……黒田さんナイスタイミング! 感謝!!
黒田さんが運転席からおりて後部座席のドアを開けると副社長が降車し、私の手を取ってホテルのラウンジへとエスコートしてくれた。
…地下って初めて来た。
普段は1階の出入り口を使用するので地下なんて来る機会はない。きょろきょろ辺りを見回していると、いつの間にか目の前にピカピカな黒塗りの外車が停車した。
運転席から黒田さんが降りてくると、後部座席のドアを開けてくれた。まるでご令嬢にでもなった気分だ。
副社長と一緒に乗り込むと再び黒田さんは運転席に戻りレストランへと車を走らせた。
地下の駐車場から地上へ出るとあたりは日が沈んですっかり暗くなっていた。
年を開けてもなおクリスマスのイルミネーションがちらほらと残っており、微妙な輝きが街にはあった。
「さっきの同級生は西田って言ったっけ?同じ社食勤務か?」
静まり返った車内で副社長が聞いてきた。
「いいえ、P・Kメディカルの社員だと思います。IDには営業部と書かれてましたし。」
「営業か。……元カレか?」
「いいえ。」
先ほどは突然の告白に驚きすぎて言葉が出ずにちゃんと返事ができなかったが、西田くんと恋人の関係になるだなんてあり得ない。多分、恋人とは一番遠い場所にいた。
乗りなれない高級車と静かさがどうも居心地が悪い。何か会話をせねばと口を開く。
「先ほど、名前で呼ばれて驚きました。他の社員の方に私たちが深い仲と勘違いされてしまうので、揶揄うにしてもやめた方が良いと思います。」
「……あれは牽制だ。」
「牽制なんて必要ありません。私は副社長とはお付き合いするつもりはありませんし、お食事も今日が最後です。」
副社長は私の手を取ると優しくキスをした。
「じゃあ、西田と付き合うつもりなのか?あいつとならお前の言う環境が同じなのか?」
副社長が自分の方へと私の手をさらに引くと付けていたブレスレットがシャラっと手首からひじの方へと滑り落ちた。
母の遺品として渡された中に入っていたブレスレットなのだが、ダイヤモンドの様な石で作られた小さな花がふんだんにデザインされ、それを繋ぐ手首に絡みつく細い蔦のようなのゴールド部分が繊細で美しかった。アクセサリーなんて持っていないので、久々に今日の服装に合わせて付けてきた。
このブレスレットを見るなり副社長の声色が変わった。
「…このブレスレットは誰からの贈り物だ?」
「誰からのものでもありませんが。」
「そんなわけないだろ。環境が違っても高級品は別物ってか?」
「何の話ですか?」
「…お前、もしかして知らないでこのブレスレット付けてるのか?」
「このブレスレットは母の形見です。」
「母親は亡くなっているのか?」
びっくりした表情を見せる。そりゃ、20代前半の子どもの親ともなればまだ元気に働く人がほとんどだ。亡くなっているときいて驚くのも無理はない。
「…はい。未婚の母で身寄りもなく一人で私を育ててくれたのですが、私が小学生の時に交通事故で亡くなりました。このブレスレットは遺品の中にありました。」
「…そうか。このブレスレットは300万くらいするぞ。」
「えっ!?」
今度はこちらが驚かされた。
「ここの留め具にロゴが入っているだろ?florideという工房の印だ。高級宝飾店の職人がひたすら良いものを作るために集まった工房で、デザインから素材まで納得しないと作らない。オーダーでしかも紹介が無いと作ってもらえないんだ。」
「そんな高価なものだったんですね…。」
300万はするってことはこの石は全部本物のダイヤモンドってこと!?
今まではオシャレが必要な時になんとなく身に着けていたが、そんな話を聞いてしまったら緊張で手が震えてしまう…。
「父親には会ったことがあるのか?」
「会ったこと無いです。名前すら知りません…。」
「もしかすると父親からの贈り物かもしれないな…。」
「そうだと良いなと思います。」
未婚の母親なのだから、父親は不倫だったのかもしれないと思ったこともある。だけど、こんな高価なものを贈ってくれる男性に母は思われていたと考えると少し嬉しい気持ちになった。
「文への贈り物でなくてよかった。それを贈った男がライバルになると一筋縄ではいかないからな。」
「また、文って呼びましたね?」
「あぁ、好きな女性の名前を呼んで何が悪い。俺の事も副社長じゃなくて名前で呼んで欲しいんだけどな…。」
副社長の声が甘く優しい音に変わった。
私と副社長では釣り合わないと思いつつも彼に見つめられるとこのまま流されてしまいたいという気持ちが勝ってしまう…。
……だめ。
……私なんかが。
俯いて視線を逸らすも頬に大きな手が添えられ再び顔を彼へと向けさせられる。
ゆっくりと副社長の顔が近づいて、これはこのままキスをされる。と覚悟を決める。
「ふっ…副社長、到着しました。」
車はホテルのエントランスに停車され、ドアマンが車のドアの前で待機していた。
「黒田てめぇ……。」
……黒田さんナイスタイミング! 感謝!!
黒田さんが運転席からおりて後部座席のドアを開けると副社長が降車し、私の手を取ってホテルのラウンジへとエスコートしてくれた。