眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
今年は例年よりも桜の開花が遅れ4月になっても十分桜を楽しむことができていた。
都内にあるガラティアホテルも例外ではなく既に満開を通り越して、桜の散りゆく花びらが最も美しいとされる圧倒的な儚さを作り出していた。創立70周年記念パーティが行われる本日の天気は快晴であり、空のブルーと淡いピンクのコントラストで絵画の様な美しさを目にすることができた。

パーティー会場となるガラティアホテルにはP・Kメディカルの社員も当然集まるので、部屋に行くなら誰にも見つからないように気をつけなくてはならない。

まぁ、社員食堂のスタッフの顔なんて覚えている社員なんてほとんどいないのだから気にすることは無いと思うが、注意するに越したことは無いと思った。

早目に身支度を整えてホテルへと向かう。

 部屋で好きにしてて良いって言ってたもんね。

気になっていた動画やサブスクのドラマを観たりして家事をせずにのんびりと過ごそうと計画していた。『貧乏暇なし』という様に私にとって『何もしない』というのは最高の贅沢だった。普段の休みの日は掃除、洗濯の他に自宅から離れた安いスーパーに買い出しに行ったり、お弁当用に作り置きのおかずなど準備したりと節約するため時間を使っていた。

まだ人の少ないレセプション行くと航希から話が通っているらしく、身分証明書を確認の上、すんなりとルームキーを受け取ることができた。c副社長室も彼のマンションもこないだのホテルの部屋もすべて高層階だったので、今回は何階だろう?と思っていたのだが、意外なことにルームキーが収められている紙のカードフォルダーは1階と書かれていた。

 1階に客室があるなんて珍しい…。

大抵のホテルは日当たりが悪かったり、眺望が良くないといった理由で客室は上階に作られている。あまり宜しくないとされる場所にある部屋を航希が予約するなんて意外だった。
先週、勝手にワンピースを送り付け予定を入れてきたので不満を伝える電話をした。なので休憩用の部屋だし、私に気を使って割と普通のお部屋をとってたのかしら?なんて思ってみたが、一歩部屋に入るとそんなことは無いとはっきりとわかった。

大きく広がるリビングスペースは私のワンルームの自宅二つ分よりも明らかに広かった。そして、リビングの奥に広がる中庭には春の花が咲き誇りガーデンファニチャーが置かれている。あまりの豪華さに2歩目が出ずに立ち尽くしてしまった。

「……何考えてるの?」

思わず声に出てしまった。休憩用の部屋って言ってたのにこれではまるでバカンスだ。

ぼーっと突っ立っていても仕方がないので、リビング中央にあるソファにバッグを置いてお手洗いなど部屋のレイアウトを確認してみた。

「寝室が3つもある…。」

航希以外の人もこの部屋を休憩室として使うのだろうか…。てっきり彼だけが使う部屋だと思ったので、彼のいう通りここにやってきたのが、他の人も使用するのであれば、私がここにいることで私たちの関係がバレてしまう。

 どうしよう。どの部屋を使えばいいのだろう…。

確認のために航希に電話をしてみるが、パーティーの準備に忙しいのか電話に出ない。

航希以外の社員と鉢合わせしても嫌なので、彼と連絡が取れるまでソファーに置いたバッグをとり部屋を出ることにした。
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