眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
【Side:航希】
「では、益々の発展を願いまして乾杯!」
主賓の挨拶に続いて乾杯の挨拶がされた。自分がするのは最後のお礼の挨拶と言われてたのでそれまでは時間がある。
ある程、来賓の方々に顔を見せたら文のいる部屋へと行くつもりでいた。
今日の祝賀会は取引先など外向けを対象としたものであり、社員たちは接待に専念していた。よって、営業や総務の社員がメインで来ていた。
営業と言えば以前文と一緒にいた同級生も営業だったな。それに、少し面倒な矢部芙美も…。
テーブル席はあるがブッフェスタイルの食事提供となっていたので各々食事をとりに行ったりドリンクを取りに行ったりと歩き回っていた。社長である親父に金魚の糞の様にくっついて挨拶をしながらふとそんなことを思い出していた時だった。
「航希くん、本日はおめでとうございます。」
「将文さん!ありがとうございます。」
声を掛けてくれたのはアクアリゾートの社長に就任したばかりの葛城社長だった。
「社長、こちらは先日社長就任のご挨拶にいらしてくれたアクアリゾートの葛城社長です。」
オフィシャルな場なので親父のことを社長と呼び、将文さんを紹介した。
「おぉ、先日はわざわざいらしてくれたのに不在で申し訳なかった。」
「いえ、こちらこそ就任祝いの立派なお花をありがとうございます。社長室に飾らせていただいております。」
「あんな花で良ければいくらでも贈らせてもらうよ。先日、うちの航希と呑みに行ったそうじゃないか。まだまだ未熟者だが今後とも仲良く頼みます。」
「こちらこそまだまだ経験の浅い身ですので、市ノ川社長のご指導賜れれば幸いです。」
「まぁ、そんなに硬くならずに今日は楽しんでいってくれ。航希、葛城社長を頼んだ。私はあちらに挨拶へ伺うよ。」
「承知しました。」
そう言うと親父は別の来賓へ挨拶へ向かった。
「市ノ川社長に気を使わせてしまったようだね。」
「いや、そんなことないですよ。」
「今日はパートナーはご一緒じゃないんですか?」
「実は彼女には自分との交際を公表しないで欲しいと言われてまして…。」
「それはなぜ?」
「自身の出自を気にしているようです。自分には相応しくないと…。現代においてなぜそこまで気にするのか理解できませんが。」
「そうか…。私も航希くんも金には困らない環境に生まれ育ったからな…。世間とのずれは多少あるだろうが相応しくないと相手に言われてしまうのは傷つくな…。私にも身に覚えがあるよ。」
「そうなんです…。それって、例の女性ですか?」
「はは、未練がましいよな。いつも話題は彼女に移ってしまう。だからいつも秘書に怒られるんだ。先ほども出逢った頃の彼女に似た女性を見つけて声を掛けてしまったんだ。僕みたいにならない様に彼女の意見を大切にして欲しいね。あの頃の僕は『俺が気にしないんだから周り何て関係ない!』って彼女の気持ちに寄り添ってあげられなかったからね。」
「僕も同じように思います。でも、将文さんが後悔されているならば真摯に受け止めたいと思います。」
「そうしてくれ。私のようにはなるなよ…。ところで…、彼女は航希くんの会社の社員じゃなかったっけ?先日の食事会でいた気がするのだが…。」
将文さんが見ている方をいると男女問わずにスーツ姿で来賓をもてなす社員にとは違ってドレス姿の矢部芙美がジャンパングラスを片手に談笑していた。
「あぁ、うちの社員のはずだが…。」
俺たちの視線に気づいたのか矢部がこちらに歩いてきた。
「副社長、本日は70周年おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。君は営業部の所属だったよね?」
「そうなんですが、今日は父の付き添いで来ております。」
相変わらず甘ったるい声を出して話す。隣に立っているのが先日食事を共にしたアクアリゾートの社長と気づき矢部は軽く挨拶をした。
「お父様の付き添いですか?」
なぜ、社員の父親がここに来るのか不思議だった。
「ちょうどあちらのお話が終わったようですわ。お父様ぁ~!」
大きく彼女が手をふると見覚えのある恰幅の良い男性がゆっくりと歩いてきた。
「…まさか。」
隣で将文さんが小さな声で呟いた。
「お父様、こちらは私がお世話になっている市ノ川副社長です。」
「この度はお忙しい中ご列席賜り誠にありがとうございます。」
まずは失礼の無いように挨拶をしたが、紹介されたのは国会中継で何度も目にしてたことがある議員の矢部 喜八郎だった。将文さんも俺に続いて矢部議員に挨拶をする。
「君のことは娘の芙美から良く聞いているよ。噂通りなかなかの男前だな。こないだ紹介されたレストランも良かった。今度は是非一緒に食事をいながら将来について相談しよう。日取りは早く決めておきたい。」
彼女と直接仕事での関りはない。将来の話とは何だ? 彼女は俺の事をどう伝えてるのだろうかと気になった。
「レストランの件はお二人のお口に合ったようで良かったです。将来の事とは一体…。」
詳しく聞こうとしたのだが、『お父様!あちらに柴崎のおじ様がいらっしゃるわっ!』と矢部がごまかすかの様に言い向こうへと連れて行ってしまった。
「念のため確認だが、航希くんの想い人は矢部さんではないよな?」
将文さんが小さな声で俺の耳元で言った。
「もちろん違いますよ。僕も何の話か詳しく知りたいです。ちょっと失礼します。」
将文さんに断りをいれ、矢部を追いかけた。
「矢部さん、ちょっといいかな?」
矢部自身は気まずそうに目をそらしたが、俺が声を掛けたことに気づいた矢部議員は『ここはいいから市ノ川君についていなさい。』と言い娘を俺の方へ向けた。
「では、益々の発展を願いまして乾杯!」
主賓の挨拶に続いて乾杯の挨拶がされた。自分がするのは最後のお礼の挨拶と言われてたのでそれまでは時間がある。
ある程、来賓の方々に顔を見せたら文のいる部屋へと行くつもりでいた。
今日の祝賀会は取引先など外向けを対象としたものであり、社員たちは接待に専念していた。よって、営業や総務の社員がメインで来ていた。
営業と言えば以前文と一緒にいた同級生も営業だったな。それに、少し面倒な矢部芙美も…。
テーブル席はあるがブッフェスタイルの食事提供となっていたので各々食事をとりに行ったりドリンクを取りに行ったりと歩き回っていた。社長である親父に金魚の糞の様にくっついて挨拶をしながらふとそんなことを思い出していた時だった。
「航希くん、本日はおめでとうございます。」
「将文さん!ありがとうございます。」
声を掛けてくれたのはアクアリゾートの社長に就任したばかりの葛城社長だった。
「社長、こちらは先日社長就任のご挨拶にいらしてくれたアクアリゾートの葛城社長です。」
オフィシャルな場なので親父のことを社長と呼び、将文さんを紹介した。
「おぉ、先日はわざわざいらしてくれたのに不在で申し訳なかった。」
「いえ、こちらこそ就任祝いの立派なお花をありがとうございます。社長室に飾らせていただいております。」
「あんな花で良ければいくらでも贈らせてもらうよ。先日、うちの航希と呑みに行ったそうじゃないか。まだまだ未熟者だが今後とも仲良く頼みます。」
「こちらこそまだまだ経験の浅い身ですので、市ノ川社長のご指導賜れれば幸いです。」
「まぁ、そんなに硬くならずに今日は楽しんでいってくれ。航希、葛城社長を頼んだ。私はあちらに挨拶へ伺うよ。」
「承知しました。」
そう言うと親父は別の来賓へ挨拶へ向かった。
「市ノ川社長に気を使わせてしまったようだね。」
「いや、そんなことないですよ。」
「今日はパートナーはご一緒じゃないんですか?」
「実は彼女には自分との交際を公表しないで欲しいと言われてまして…。」
「それはなぜ?」
「自身の出自を気にしているようです。自分には相応しくないと…。現代においてなぜそこまで気にするのか理解できませんが。」
「そうか…。私も航希くんも金には困らない環境に生まれ育ったからな…。世間とのずれは多少あるだろうが相応しくないと相手に言われてしまうのは傷つくな…。私にも身に覚えがあるよ。」
「そうなんです…。それって、例の女性ですか?」
「はは、未練がましいよな。いつも話題は彼女に移ってしまう。だからいつも秘書に怒られるんだ。先ほども出逢った頃の彼女に似た女性を見つけて声を掛けてしまったんだ。僕みたいにならない様に彼女の意見を大切にして欲しいね。あの頃の僕は『俺が気にしないんだから周り何て関係ない!』って彼女の気持ちに寄り添ってあげられなかったからね。」
「僕も同じように思います。でも、将文さんが後悔されているならば真摯に受け止めたいと思います。」
「そうしてくれ。私のようにはなるなよ…。ところで…、彼女は航希くんの会社の社員じゃなかったっけ?先日の食事会でいた気がするのだが…。」
将文さんが見ている方をいると男女問わずにスーツ姿で来賓をもてなす社員にとは違ってドレス姿の矢部芙美がジャンパングラスを片手に談笑していた。
「あぁ、うちの社員のはずだが…。」
俺たちの視線に気づいたのか矢部がこちらに歩いてきた。
「副社長、本日は70周年おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。君は営業部の所属だったよね?」
「そうなんですが、今日は父の付き添いで来ております。」
相変わらず甘ったるい声を出して話す。隣に立っているのが先日食事を共にしたアクアリゾートの社長と気づき矢部は軽く挨拶をした。
「お父様の付き添いですか?」
なぜ、社員の父親がここに来るのか不思議だった。
「ちょうどあちらのお話が終わったようですわ。お父様ぁ~!」
大きく彼女が手をふると見覚えのある恰幅の良い男性がゆっくりと歩いてきた。
「…まさか。」
隣で将文さんが小さな声で呟いた。
「お父様、こちらは私がお世話になっている市ノ川副社長です。」
「この度はお忙しい中ご列席賜り誠にありがとうございます。」
まずは失礼の無いように挨拶をしたが、紹介されたのは国会中継で何度も目にしてたことがある議員の矢部 喜八郎だった。将文さんも俺に続いて矢部議員に挨拶をする。
「君のことは娘の芙美から良く聞いているよ。噂通りなかなかの男前だな。こないだ紹介されたレストランも良かった。今度は是非一緒に食事をいながら将来について相談しよう。日取りは早く決めておきたい。」
彼女と直接仕事での関りはない。将来の話とは何だ? 彼女は俺の事をどう伝えてるのだろうかと気になった。
「レストランの件はお二人のお口に合ったようで良かったです。将来の事とは一体…。」
詳しく聞こうとしたのだが、『お父様!あちらに柴崎のおじ様がいらっしゃるわっ!』と矢部がごまかすかの様に言い向こうへと連れて行ってしまった。
「念のため確認だが、航希くんの想い人は矢部さんではないよな?」
将文さんが小さな声で俺の耳元で言った。
「もちろん違いますよ。僕も何の話か詳しく知りたいです。ちょっと失礼します。」
将文さんに断りをいれ、矢部を追いかけた。
「矢部さん、ちょっといいかな?」
矢部自身は気まずそうに目をそらしたが、俺が声を掛けたことに気づいた矢部議員は『ここはいいから市ノ川君についていなさい。』と言い娘を俺の方へ向けた。