眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
パーティー会場となるホテルの宴会場を出て人気(ひとけ)のない場所へと移動した。

「将来の事とか日取りを決めるとか一体なんのことか説明してもらえないかな?」

「そんな怖い顔しないでくださぁい。」

矢部は少し不貞腐れたかのような態度をとる。

「君とはプライベートな関りは無いはずだが?」

「…父に将来結婚できたら良いと思う人が現れたって言っただけです。」

「それが僕なのか?」

「…ずっと副社長の事が好きだったんです。先日、間違いだとは言え、お食事に行けたことが嬉しくて…。好きな人が連れて行ってくれた店と言って父と一緒に行ったんです。嘘は言ってないです。」

「はぁー…。そんな言い方をすればお父上も勘違いするに決まっているじゃないか。」

彼女の軽率な発言に腹が立った。

「私もまさか父とP・Kメディカルのつながりがあるなんて思わなくて…。招待状が届いて副社長に挨拶したいって言いだしたから上手く誤魔化すために付き添いとして側にいたんです。」

「ということは自分の行いが間違っていると分かっているんだな?」

「副社長が良ければそのまま真実にするのはどうですか?恋人がいらっしゃらないってチャリティーイベントで副社長のお母さまが言っていたと母が言ってました。」

 まさか、そこにも繋がりがあったのか…。

「プライベートなことなので公言していないが恋人はいる。君からご両親にきちんと訂正しておくように。」

「恋人って、どちらのご令嬢ですか?」

「君には関係ない。話は以上だ。」

矢部に背を向けそのまま文の待つ部屋へと向かおうとしたのだが、矢部が後ろから抱き着いてきたのだ。

「私が副社長を好きなことは本当です。ずっと好きでした。」

腰に回された矢部の腕をゆっくり解きながら振り返る。

「君の気持には応えられない。すまない。」

涙目になる彼女を残し、その場を去った。
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