眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
翌日、仕事が終わる真紀ちゃんを誘って慣れ親しんだ施設へと向かった。
数年前に建て替えたばかりなので、どちらかというと以前の建物の思い出の方が多いが、敷地の境界に植えられた桜や梅、柿やイチジクの木は場所を変えず残されていたので、そこから懐かしさを感じた。
来年にはこの建物も木もなくなっちゃうんだなぁ…。
施設に入る前に一度立ち止まり、鉄筋3階建の施設を見上げた。
まだ、どこもかしこもキレイなのに、このまま取り壊しになってしまうなんてもったい…。
入り口の横にあるスタッフルームで慣れ親しんだスタッフに挨拶をし、子どもたち夕食やお風呂の手伝いをしてから、取り壊しについての話を尋ねてみた。しかし、どのスタッフも詳しいことは伝えられていないようで、ここの児童養護施設を取り壊した後は老人ホームになる予定になっているとだけ教えてもらった。
施設の園長先生にも突然封書で通達があり、行政に問い合わせをしたのだが、『決定した事だから。』と、取り合って貰えなかったという。あまりに乱暴な話だと施設のスタッフ全員怒りで役所へ出向いたが、担当者不在という理由で門前払いにあったそうだ。
「少子化が進んでいるから子どもより老人介護を優先したのかしらねぇ~。」
と話すスタッフもいた。
「なーんか、話を聞くに、園長先生がいろんなところに問い合わせても、その度にたらい回しにされてる感じがするよねー。」
施設の帰りに寄ったいつもの居酒屋でビールのジョッキを置きながら呟いた。
「文もそう思う?」
真希ちゃんも同じくビールの最初の一口目をかみしめながら返事をする。
「園長先生含めて施設のスタッフが全員が寝耳に水って感じだったし…。」
「わざわざ施設を取り壊して老人ホーム作らなくても良くない!?」
「そうだよね~、真希ちゃんの言う通りだと思う。他にも利用できる土地がありそうなものだけど…。」
「もしかして、あの施設の土地に埋蔵金が隠されているとかっ!?」
真希ちゃんが枝豆をつまみながら突拍子もないことを言いだした。
「こないだTVで徳川家の埋蔵金特集やっててさー、もしかしてって思っちゃった~。」
「埋蔵金って…。でも…、埋蔵金まで行かなくても、あの施設の場所に特別な何かがあるのかも…。まぁ…理由はわからないけど。」
おなかを空かせた真希ちゃんが一気にオーダーするので、居酒屋の狭いテーブルはあっという間に料理の置き場が無くなった。
から揚げにレモンを絞る真紀ちゃんの左手の薬指に小さなダイヤのついた指輪があることに気がついた。
「真希ちゃん!その指輪ってっ!」
驚きのあまり、つい声が大きくなり周りのお客さんが一瞬こちらを注目したので、申し訳ないという顔を作って会釈をする。
「うふふっ!そ~なのっ!私、結婚するんだ~!」
ニヤニヤしならがら、芸能人の婚約発表のように左手の甲を見せた。
「真希ちゃんおめでと~っ!何で直ぐに教えてくれなかったのぉ~!?」
自分の事の様に嬉しくてドキドキした。
「だってさー、施設の一大事なのに発表するタイミング悪いでしょー。」
「園長先生には報告したの?」
「もちろんしたよっ!ってか、お世話になった園長先生には彼の方から挨拶したいって言ってくれたの。そういう事はきちんとしなければダメだって。うちらの親みたいなもんだからね~。」
幸せいっぱいの笑顔で自分の指にはめられた指輪を眺める真希ちゃんは、キラキラとして普段の100倍は可愛く見えた。
「旦那さんになる人、とてもいい人そうだね!!そんな人なら安心っ。」
真希ちゃんの結婚を祝う乾杯の為に再度二人でビールを追加した。
「そう言えば、あれから西田のやつはどうなった?」
突然の西田くんの名前が出てきて咽かえる。
「ゲホッ…。えっと…、あれから一度、わたしが働いている社員食堂の前で会ったんだよね…。それで、学生時代の事を謝られて…、その後になぜか告られた…。」
最後の一言に箸を落としそうになる真希ちゃん。
「はぁーーーーっ!?何それ!?マジ意味不明なんだけど!! それで、文はなんて返事したの??」
「返事は…。」
真希ちゃんには返事をする前に副社長である航希が現れて、その場から連れ去られてしまった事から、先日、西田くんにジーっと見られていたことなどを全て話をした。
「やだっ!文も『おめでとう』なんじゃない!!!てか、このまま行けば玉の輿?」
改めて言われると恥ずかしくて、ついついビールに手が伸びてしまった。
「玉の輿って…。男の人と付き合うのって初めてだし、そもそも、天と地の差ほど生活レベルが違うからこの先どうなるかわからないよ。」
「文は彼の事が好きなんでしょ?」
「うん。好きだよ。…だけど、こういう好きって初めてでなんだかよく分からなくて…。ひたすら恥ずかしい…。」
「こうなったら西田にはそのまま副社長が文の恋人だって思わせてればいいのよ!お前には到底かなわない相手がライバルだって!」
「でも、西田くんが社内の人にその話をしちゃったらわたし恥ずかしく仕事いけないよぉ〜。何であんな凡人と付き合ってるんだって、航希まで悪く言われてしまいそうな気がする…。」
「あー…。アイツは言わないだろうなー。自分の好きな人が他の男と付き合ってるだなんてプライドが傷つくもん!」
「そうかなぁ…。」
昨日、ポストに入っていた手紙について話しておこうかなぁ…。と頭に浮かんだが、幸せ真っ只中の真希ちゃんに心配をかけるのはよくないと思い、今日は言うのをやめた。
数年前に建て替えたばかりなので、どちらかというと以前の建物の思い出の方が多いが、敷地の境界に植えられた桜や梅、柿やイチジクの木は場所を変えず残されていたので、そこから懐かしさを感じた。
来年にはこの建物も木もなくなっちゃうんだなぁ…。
施設に入る前に一度立ち止まり、鉄筋3階建の施設を見上げた。
まだ、どこもかしこもキレイなのに、このまま取り壊しになってしまうなんてもったい…。
入り口の横にあるスタッフルームで慣れ親しんだスタッフに挨拶をし、子どもたち夕食やお風呂の手伝いをしてから、取り壊しについての話を尋ねてみた。しかし、どのスタッフも詳しいことは伝えられていないようで、ここの児童養護施設を取り壊した後は老人ホームになる予定になっているとだけ教えてもらった。
施設の園長先生にも突然封書で通達があり、行政に問い合わせをしたのだが、『決定した事だから。』と、取り合って貰えなかったという。あまりに乱暴な話だと施設のスタッフ全員怒りで役所へ出向いたが、担当者不在という理由で門前払いにあったそうだ。
「少子化が進んでいるから子どもより老人介護を優先したのかしらねぇ~。」
と話すスタッフもいた。
「なーんか、話を聞くに、園長先生がいろんなところに問い合わせても、その度にたらい回しにされてる感じがするよねー。」
施設の帰りに寄ったいつもの居酒屋でビールのジョッキを置きながら呟いた。
「文もそう思う?」
真希ちゃんも同じくビールの最初の一口目をかみしめながら返事をする。
「園長先生含めて施設のスタッフが全員が寝耳に水って感じだったし…。」
「わざわざ施設を取り壊して老人ホーム作らなくても良くない!?」
「そうだよね~、真希ちゃんの言う通りだと思う。他にも利用できる土地がありそうなものだけど…。」
「もしかして、あの施設の土地に埋蔵金が隠されているとかっ!?」
真希ちゃんが枝豆をつまみながら突拍子もないことを言いだした。
「こないだTVで徳川家の埋蔵金特集やっててさー、もしかしてって思っちゃった~。」
「埋蔵金って…。でも…、埋蔵金まで行かなくても、あの施設の場所に特別な何かがあるのかも…。まぁ…理由はわからないけど。」
おなかを空かせた真希ちゃんが一気にオーダーするので、居酒屋の狭いテーブルはあっという間に料理の置き場が無くなった。
から揚げにレモンを絞る真紀ちゃんの左手の薬指に小さなダイヤのついた指輪があることに気がついた。
「真希ちゃん!その指輪ってっ!」
驚きのあまり、つい声が大きくなり周りのお客さんが一瞬こちらを注目したので、申し訳ないという顔を作って会釈をする。
「うふふっ!そ~なのっ!私、結婚するんだ~!」
ニヤニヤしならがら、芸能人の婚約発表のように左手の甲を見せた。
「真希ちゃんおめでと~っ!何で直ぐに教えてくれなかったのぉ~!?」
自分の事の様に嬉しくてドキドキした。
「だってさー、施設の一大事なのに発表するタイミング悪いでしょー。」
「園長先生には報告したの?」
「もちろんしたよっ!ってか、お世話になった園長先生には彼の方から挨拶したいって言ってくれたの。そういう事はきちんとしなければダメだって。うちらの親みたいなもんだからね~。」
幸せいっぱいの笑顔で自分の指にはめられた指輪を眺める真希ちゃんは、キラキラとして普段の100倍は可愛く見えた。
「旦那さんになる人、とてもいい人そうだね!!そんな人なら安心っ。」
真希ちゃんの結婚を祝う乾杯の為に再度二人でビールを追加した。
「そう言えば、あれから西田のやつはどうなった?」
突然の西田くんの名前が出てきて咽かえる。
「ゲホッ…。えっと…、あれから一度、わたしが働いている社員食堂の前で会ったんだよね…。それで、学生時代の事を謝られて…、その後になぜか告られた…。」
最後の一言に箸を落としそうになる真希ちゃん。
「はぁーーーーっ!?何それ!?マジ意味不明なんだけど!! それで、文はなんて返事したの??」
「返事は…。」
真希ちゃんには返事をする前に副社長である航希が現れて、その場から連れ去られてしまった事から、先日、西田くんにジーっと見られていたことなどを全て話をした。
「やだっ!文も『おめでとう』なんじゃない!!!てか、このまま行けば玉の輿?」
改めて言われると恥ずかしくて、ついついビールに手が伸びてしまった。
「玉の輿って…。男の人と付き合うのって初めてだし、そもそも、天と地の差ほど生活レベルが違うからこの先どうなるかわからないよ。」
「文は彼の事が好きなんでしょ?」
「うん。好きだよ。…だけど、こういう好きって初めてでなんだかよく分からなくて…。ひたすら恥ずかしい…。」
「こうなったら西田にはそのまま副社長が文の恋人だって思わせてればいいのよ!お前には到底かなわない相手がライバルだって!」
「でも、西田くんが社内の人にその話をしちゃったらわたし恥ずかしく仕事いけないよぉ〜。何であんな凡人と付き合ってるんだって、航希まで悪く言われてしまいそうな気がする…。」
「あー…。アイツは言わないだろうなー。自分の好きな人が他の男と付き合ってるだなんてプライドが傷つくもん!」
「そうかなぁ…。」
昨日、ポストに入っていた手紙について話しておこうかなぁ…。と頭に浮かんだが、幸せ真っ只中の真希ちゃんに心配をかけるのはよくないと思い、今日は言うのをやめた。