眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
土曜日はとても良く晴れていて雲ひとつない青空が広がっていた。航希が車で迎えに来てくれるというので真希ちゃんの家まで来てもらった。もちろん暫く真希ちゃんの家に避難していることは告げず、前日に一緒にご飯を食べる約束をした流れで泊ったと説明していた。
「ひ…久しぶり。」
革張りの助手席に座り、うつむいたまま航希に挨拶をする。
サングラスをかけた航希の顔がこちらを向いているのが視界の端に入っているのだが、久々に会うという緊張から彼の顔を見ることができないでいた。
「俺、日本に帰ってきてから、めちゃくちゃ会いたかったんだけど。伝わらなかった?」
食事のお誘いを断り続けた私に対して少し意地悪く言う。すっかり拗ねてしまったようだ。
「私も会いたかったです…。」
「嘘だね。」
今までにない冷たい口調に慌てて航希の方を見た。
「嘘じゃない。」
「やっとこっち見た。」
運転している航希の口角が上がった。
「文はどこか行きたいところある?」
「航希が一緒にいてくれるならどこでもいいよ?」
「嬉しいことを言ってくれるようになったじゃん。じゃあ、俺の好きな場所に向かう。」
目的地が決まると、車のスピードが少しだけ上がった。
音楽もラジオも流れていない車内では車のエンジン音だけが聞こえる。
右手はハンドルを握ったまま、手のひらを上に向けた左手をパタパタさせ無言で手を重ねるように訴えてきたので、そっと手をのせるとキュッと握りしめられた。
視線は前を向いたまま私の手を自分の口元に持っていくと、唇にあてる。
「文の匂いがする。あの時と同じ…。」
そう言うとくすりと笑った。
1時間ほど車を走らせると、窓から見える景色は高層ビルはなくなり新緑がまぶしく畑が目立っていた。スーパーの駐車場に車を停めると航希は車から降りて助手席のドアを開けた。
「文の手料理が食べたい。」
「私の手料理を食べるためにこんなに遠くまで来たの?」
「…それは内緒。」
航希は私の手をとるとスーパーの中へと入っていった。
カートに買い物かごを二つ乗せると、食べたいものが決まっているのかためらうことなくカゴに食材を入れていく。
カゴに入れられた食材からリクエストされるメニューを想像してみるが、食材の種類が多くて何を求められているのかわからない。はやい速度で店内を1周するとあっという間に二つのカゴは山盛りになっていた。
「手料理って、何人分必要なのっ!?」
「俺と文の二人分だけど?」
「二人分でこの量は多すぎよっ!」
「俺、料理しないから何が必要かわからないから適当に入れたけど?足りないものある?」
「これだけあれば大抵のものは何でも作れるわ!一人暮らしならひと月分はあるんじゃないっ!?」
「二人だから2週間は持つな。」
航希は笑いながら買った食材を袋に詰め、乗ってきた車のトランクに荷物のせると再び車を走らせ、そこから30分、更に山奥へと進んだところで目的地に着いた。
車から降りると砂利道が数メートルあり、その先には木目の綺麗な家が建っていた。大きなガラス張りの窓があり外観からも天井の高さがうかがえた。航希は車のトランクから先ほど買った大量の食材を出すと建物へと歩いて行った。
「文、手がふさがっているから鍵開けて。」
「あ、うん。」
急いで航希の方へと駆け寄る。
「鍵はどこにあるの?」
「番号言うから押して。」
ドアに付けられた電子錠の蓋をあけ、言われた番号を押すと鍵が開く音がしたので、手のふさがった航希の代わりにドアを開ける。
ドアの先には真っ白な大理石が敷き詰められた玄関があり、正面にはオシャレな絵が飾られていた。
「文、こっち。」
靴を揃えて呼ばれた方に行くとテレビでしか見たことのないアイランドキッチンがあり、そこで航希はスーパーの袋を置くと換気のためにいくつかの窓を開けはじめた。アイランドキッチンからつながる広いリビングに置かれたものは、シンプルなデザインのものが多かったが一つ一つが高級品なことは私でも分かった。
「ここって…。」
「親父の別荘。そこの冷蔵庫に適当に詰めちゃって。」
窓を開けながら言うので、その通りに袋から出して冷蔵庫に移し替える。冷蔵庫にはウォーターサーバーとアイスディスペンサーがついており、いかにも海外製だとアピールしているようだった。
一通り生ものを冷蔵庫に詰め終え、空いたレジ袋とお菓子類をまとめていると、家具に掛けられた布を外し終えた航希がくっついてきた。
「文にとって俺って何?」
「…恋人です。」
「俺、スイスにいる間ずっと文に会いたかった。帰国してからもずっと。」
「私だって航希に会いたかったよ。」
「本当に??サプライズで空港に来てるんじゃないかって探しもした…。文は本当に俺のこと恋人だと思ってる??…くそっ、こんなことを言いたいんじゃないんだ…。」
いらだちを抑えるかのように航希は冷蔵庫から入れたばかりの缶ビールを取り出して一気に体に流し込む。
私は運転免許を持っていないので、この瞬間に暫くこの別荘から移動できないことは確定した。
「えっ?吞んじゃうの?帰りの運転は??」
「今日は帰らない。離れたくない…。」
ビールの缶をカウンターに置くと、私しか知らない弱々しい表情でゆっくりと唇を求めてきた。
「ひ…久しぶり。」
革張りの助手席に座り、うつむいたまま航希に挨拶をする。
サングラスをかけた航希の顔がこちらを向いているのが視界の端に入っているのだが、久々に会うという緊張から彼の顔を見ることができないでいた。
「俺、日本に帰ってきてから、めちゃくちゃ会いたかったんだけど。伝わらなかった?」
食事のお誘いを断り続けた私に対して少し意地悪く言う。すっかり拗ねてしまったようだ。
「私も会いたかったです…。」
「嘘だね。」
今までにない冷たい口調に慌てて航希の方を見た。
「嘘じゃない。」
「やっとこっち見た。」
運転している航希の口角が上がった。
「文はどこか行きたいところある?」
「航希が一緒にいてくれるならどこでもいいよ?」
「嬉しいことを言ってくれるようになったじゃん。じゃあ、俺の好きな場所に向かう。」
目的地が決まると、車のスピードが少しだけ上がった。
音楽もラジオも流れていない車内では車のエンジン音だけが聞こえる。
右手はハンドルを握ったまま、手のひらを上に向けた左手をパタパタさせ無言で手を重ねるように訴えてきたので、そっと手をのせるとキュッと握りしめられた。
視線は前を向いたまま私の手を自分の口元に持っていくと、唇にあてる。
「文の匂いがする。あの時と同じ…。」
そう言うとくすりと笑った。
1時間ほど車を走らせると、窓から見える景色は高層ビルはなくなり新緑がまぶしく畑が目立っていた。スーパーの駐車場に車を停めると航希は車から降りて助手席のドアを開けた。
「文の手料理が食べたい。」
「私の手料理を食べるためにこんなに遠くまで来たの?」
「…それは内緒。」
航希は私の手をとるとスーパーの中へと入っていった。
カートに買い物かごを二つ乗せると、食べたいものが決まっているのかためらうことなくカゴに食材を入れていく。
カゴに入れられた食材からリクエストされるメニューを想像してみるが、食材の種類が多くて何を求められているのかわからない。はやい速度で店内を1周するとあっという間に二つのカゴは山盛りになっていた。
「手料理って、何人分必要なのっ!?」
「俺と文の二人分だけど?」
「二人分でこの量は多すぎよっ!」
「俺、料理しないから何が必要かわからないから適当に入れたけど?足りないものある?」
「これだけあれば大抵のものは何でも作れるわ!一人暮らしならひと月分はあるんじゃないっ!?」
「二人だから2週間は持つな。」
航希は笑いながら買った食材を袋に詰め、乗ってきた車のトランクに荷物のせると再び車を走らせ、そこから30分、更に山奥へと進んだところで目的地に着いた。
車から降りると砂利道が数メートルあり、その先には木目の綺麗な家が建っていた。大きなガラス張りの窓があり外観からも天井の高さがうかがえた。航希は車のトランクから先ほど買った大量の食材を出すと建物へと歩いて行った。
「文、手がふさがっているから鍵開けて。」
「あ、うん。」
急いで航希の方へと駆け寄る。
「鍵はどこにあるの?」
「番号言うから押して。」
ドアに付けられた電子錠の蓋をあけ、言われた番号を押すと鍵が開く音がしたので、手のふさがった航希の代わりにドアを開ける。
ドアの先には真っ白な大理石が敷き詰められた玄関があり、正面にはオシャレな絵が飾られていた。
「文、こっち。」
靴を揃えて呼ばれた方に行くとテレビでしか見たことのないアイランドキッチンがあり、そこで航希はスーパーの袋を置くと換気のためにいくつかの窓を開けはじめた。アイランドキッチンからつながる広いリビングに置かれたものは、シンプルなデザインのものが多かったが一つ一つが高級品なことは私でも分かった。
「ここって…。」
「親父の別荘。そこの冷蔵庫に適当に詰めちゃって。」
窓を開けながら言うので、その通りに袋から出して冷蔵庫に移し替える。冷蔵庫にはウォーターサーバーとアイスディスペンサーがついており、いかにも海外製だとアピールしているようだった。
一通り生ものを冷蔵庫に詰め終え、空いたレジ袋とお菓子類をまとめていると、家具に掛けられた布を外し終えた航希がくっついてきた。
「文にとって俺って何?」
「…恋人です。」
「俺、スイスにいる間ずっと文に会いたかった。帰国してからもずっと。」
「私だって航希に会いたかったよ。」
「本当に??サプライズで空港に来てるんじゃないかって探しもした…。文は本当に俺のこと恋人だと思ってる??…くそっ、こんなことを言いたいんじゃないんだ…。」
いらだちを抑えるかのように航希は冷蔵庫から入れたばかりの缶ビールを取り出して一気に体に流し込む。
私は運転免許を持っていないので、この瞬間に暫くこの別荘から移動できないことは確定した。
「えっ?吞んじゃうの?帰りの運転は??」
「今日は帰らない。離れたくない…。」
ビールの缶をカウンターに置くと、私しか知らない弱々しい表情でゆっくりと唇を求めてきた。