眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
【Side:文】

次の日の朝、カーテンを開けると空はまだ暗いのに、町は雪明りではっきりと白く浮かび上がっていた。
このアパートに住み始めて5年になるが、ここまで冷える朝は初めてかもしれない。

まずは体を温めようと、台所へ行きお湯を沸かしてインスタントコーヒーの瓶を手に取った。
マグカップに注いだお湯の湯気と共にコーヒーの香りが鼻に抜け目が覚める。

「ふーー…。」

淹れたてのコーヒーを一口飲み、部屋に戻りテレビを点けると、どこもかしこも運休情報が飛び交っていた。

 今日はほとんどのメンバーの出社が遅れるからひとりでも早く行って準備を始めなくちゃなぁ…。

 そう言えば、昨日の市ノ川さんはちゃんと帰れたのかしら?

 あ…、保温ボトル、そのまま置いてきちゃった。

そんなことを考えながら朝食を済ませ、出社の支度をする。
支度と言ってもお洒落よりも清潔感を重視する職場なので身だしなみを整える程度なのだが…。

お金に余裕のない文にとって、お洒落やメイクにお金を掛けずにすむ職場環境は有難かった。
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