眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
「こちらにいる葛城社長の娘さんと僕は少し前に真剣にお付き合いをしていました。以前、弊社の70周年記念パーティにいらした際に僕は想いを寄せている人がいるとお伝えしましたよね?互いに真剣に愛し合っていたはずなのに、訳が合って彼女とこちらにいる園田真希さんがお世話になっていた児童養護施設の取り壊しが不自然な形で決定したタイミングで彼女は僕と距離を置き始めたんです。なので、僕は彼女には内緒で色々と調べたんですよ。」
「それと今日の芙美との見合いはどう関係が?」
矢部議員は面倒くさ気に言った。
「矢部議員はご存じなさそうですね。しかし、その施設の取り壊しを命じたのは矢部議員ということになっていましたよ?」
「いったい何の話だ!」
話を進めるにつれ、中村と呼ばれていた男性の表情が青ざめていく。
「おそらく、議員秘書をされている中村さんならご存じなのでは?」
「…いや、その…。」
中村さんは下を向いたまま気まずそうにしながらもチラチラと矢部芙美の方を見ていた。
「他にも中村さんにつては気になる写真を入手することができました。こちらは文が住んでいるアパートの近くのコンビニの防犯カメラから取得した画像です。どうやら中村さんが文のポストに封筒を入れている映像が何日にもわたって映っていりました。ほぼ毎日、彼女のポストに何を入れていたんでしょうか?おそらく、それはここに来てくれた3人がご存じのはず。」
航希は真希ちゃんたちの方を向く。
「はい、ずっと彼女から相談を受けていました。「彼氏と別れろ」という内容の手紙がほとんどでした。気味が悪いのでずっと私の家に暫く泊ってました。一度、アパートの部屋を荒らされたこともあります。」
「他には施設の取り壊しも副社長に起こる不幸も全てお前のせいだとか…。」
西田くんもあの時の事を証言してくれた。
「お恥ずかしながら、数か月前、弊社にて立て続けに融資を断られたり、申請中の薬品が理由なく棄却されたり、悪意ある噂をたてられたりとトラブルが続いたことがあったんです。しかし、彼女と別れた瞬間にすべてがまるでなかったかの様に収まったんです。こちらについても中村さんがご存じですよね?」
「あ…、そっ…それは…。」
「おいっ!中村!どういうことなのかちゃんと説明をしろっ!」
自分の知らないところで秘書が何かしていたことに気づいた矢部議員は苛立ちを見せた。
「そっ…それは…、お嬢様の為に…。」
「はっ!?中村何を言っているの!?お父様、彼の話を信じないでっ!!」
「中村に聞いている、芙美は黙っていろ。」
声が大きくなる矢部芙美を矢部議員は遮って中村さんに説明を求めた。
「お嬢様が『長月 文』に横恋慕され邪魔だと嘆いていたもので、微力ながら自分が力になれればとご協力させていただきました。」
矢部芙美の顔色を伺いながらおたおたと答えた。
「芙美、どういう事だ!?」
「違うのっ!そもそも、全部この女がいけないのよっ!!」
思いっきり指をさせれるが、会社の食堂などで何度か見かけたことがあるものの、直接かかわったことは一度もない。一体、私が何をしたというのだろうか。
「この女のせいで誠と別れることになったのに、次に好きなった相手までこの女に取られたの!この女、会社の創立記念のパーティーに副社長と同じ部屋から出てきたのよっ!!一体、私があんたに何をしたって言うのよっ!」
『誠』という名前が聞こえ、私と真希ちゃんはほぼ同時に西田くんの方を見る。
「…あ、前に話をした元カノが彼女、芙美なんだ。」
西田くんは気まずそうに言った。
「「はぁっ!?」」
真希ちゃんと声が揃った。
「1年ほど芙美とは付き合っていたんだけど、社内に長月がいることを知って好きな人ができたからって別れたんだ。好きな人が長月とは話した覚えがなかったんだが…。」
その様子をみて矢部芙美は西田くんに向かって叫ぶ。
「そりゃ、態度をみてればわかるわよっっ!普段のお昼は定食屋に行くかコンビニがメインだったのに、突然社員食堂ばかり通い始めて…。」
この二人が繋がっていたとは夢にも思わなかった。
「だからお前は中村を使って葛城くんのお嬢さんに嫌がらせをしたのか?」
矢部議員の声には怒りが含まれていた。
「私は何も中村に頼んでいないわっ!この女を少し懲らしめられたらって…。副社長とお近づきになれたって嬉しいな…。としか…。」
「お嬢様!酷いです!僕はお嬢様の為にここまで…。」
「馬鹿もんっ!!!お前ら二人は一体何をやっているんだっ!!市ノ川家の皆さんのご迷惑をかけてっ!!!」
「そうよ、芙美。航希くんが今フリーになっているからってお見合いのお話を喜美ちゃんにお願いしたのに…。まさか、あなた達が原因で航希くんが別れていたなんて…。」
両親に真実を明らかにされ矢部芙美は何も言えずにいるが、常にキッっとこちらを睨みつけていた。
「航希くん、娘が迷惑をかけたね。君が伝えたい事はよくわかった。今日の見合いは無かったことにしてくれ。今後娘を君たちに近づけさせないと約束する。だからどうか今回の件は内密に頼むよ。」
「二度と同じようなことが無いようにお願いします。」
深々と航希は頭を下げた。
「あぁ…、市ノ川社長と葛城くんにも仮を作ってしまったね、何かあれば力になるからいつでも言ってくれ。それでチャラにしよう。」
矢部議員が振り返ってそう一言いうと、矢部家メンバーは秘書の中村さんを含め全員部屋を出て行った。
その言葉にお父さんも市ノ川社長もそれぞれ言いたいことはありそうな顔をしていたが、仕方なく受け入れているようだった。
後日、黒田さんからの話では矢部芙美は退職届を出してきたそうで、社内で顔を合わすこともなくなるだろう。と言っていた。
「さぁ、我々だけになりましたが、こちらの料亭の甘未も美味しいですよ。皆さんでどうでしょうか?」
お父さんはしらけ切ってしまった場を和ますために、部屋に残された人たちに声をかけ皆を籍につかせた。
それぞれ注文が終わると痺れを切らした市ノ川社長が話し出す。
「航希、そろそろ紹介くれてもいいんじゃないか?」
「あぁ、そうだった…。彼女が俺の恋人の長月 文さんです。」
航希に紹介されたので市ノ川社長に向かって深くお辞儀をした。
「お前たしかフラてたんだよな?恋人だったの間違いじゃないのか??」
社長は航希に揶揄いの言葉をかける。
「あれは今日の一幕で無しになった。だよな、文。」
「えっ…。それは…。」
「ほら見ろ、違うみたいだぞ?」
「別れたのは無しだっ!!!」
はっきり答えない私にふくれっ面を見せ、それを見て笑う者もいれば西田くんの様に微妙な表情をする者もいた。自分の勤める会社の経営者のいじけている顔なんて見たくなかったのだろう。
「まぁまぁ、市ノ川社長、あまり航希くんをいじめないでやって下さい。」
「そういう葛城くんこそ、航希の彼女が君の娘って一体どういう事なんだ?」
独身貴族で有名だったアクアリゾートの御曹司に浮いた話は一切なかった。突然、自分の娘だと紹介され驚かない人はいない。
お父さんは自分の過去を含め親子鑑定の結果をここにいる皆に伝えた。
「文、お父さんが見つかって良かったね!!しかも、お父さんがあのアクアリゾートの社長さんだなんて凄すぎだよっ!!」
文ちゃんは私に父親が見つかった事、航希ともう一度付き合えることになった事、心から喜んでくれた。
沢山心配してくれた真希ちゃんにはいくら感謝してもしきれない。私にとって最高の友達であり、最高のお姉ちゃんだ。
「それと今日の芙美との見合いはどう関係が?」
矢部議員は面倒くさ気に言った。
「矢部議員はご存じなさそうですね。しかし、その施設の取り壊しを命じたのは矢部議員ということになっていましたよ?」
「いったい何の話だ!」
話を進めるにつれ、中村と呼ばれていた男性の表情が青ざめていく。
「おそらく、議員秘書をされている中村さんならご存じなのでは?」
「…いや、その…。」
中村さんは下を向いたまま気まずそうにしながらもチラチラと矢部芙美の方を見ていた。
「他にも中村さんにつては気になる写真を入手することができました。こちらは文が住んでいるアパートの近くのコンビニの防犯カメラから取得した画像です。どうやら中村さんが文のポストに封筒を入れている映像が何日にもわたって映っていりました。ほぼ毎日、彼女のポストに何を入れていたんでしょうか?おそらく、それはここに来てくれた3人がご存じのはず。」
航希は真希ちゃんたちの方を向く。
「はい、ずっと彼女から相談を受けていました。「彼氏と別れろ」という内容の手紙がほとんどでした。気味が悪いのでずっと私の家に暫く泊ってました。一度、アパートの部屋を荒らされたこともあります。」
「他には施設の取り壊しも副社長に起こる不幸も全てお前のせいだとか…。」
西田くんもあの時の事を証言してくれた。
「お恥ずかしながら、数か月前、弊社にて立て続けに融資を断られたり、申請中の薬品が理由なく棄却されたり、悪意ある噂をたてられたりとトラブルが続いたことがあったんです。しかし、彼女と別れた瞬間にすべてがまるでなかったかの様に収まったんです。こちらについても中村さんがご存じですよね?」
「あ…、そっ…それは…。」
「おいっ!中村!どういうことなのかちゃんと説明をしろっ!」
自分の知らないところで秘書が何かしていたことに気づいた矢部議員は苛立ちを見せた。
「そっ…それは…、お嬢様の為に…。」
「はっ!?中村何を言っているの!?お父様、彼の話を信じないでっ!!」
「中村に聞いている、芙美は黙っていろ。」
声が大きくなる矢部芙美を矢部議員は遮って中村さんに説明を求めた。
「お嬢様が『長月 文』に横恋慕され邪魔だと嘆いていたもので、微力ながら自分が力になれればとご協力させていただきました。」
矢部芙美の顔色を伺いながらおたおたと答えた。
「芙美、どういう事だ!?」
「違うのっ!そもそも、全部この女がいけないのよっ!!」
思いっきり指をさせれるが、会社の食堂などで何度か見かけたことがあるものの、直接かかわったことは一度もない。一体、私が何をしたというのだろうか。
「この女のせいで誠と別れることになったのに、次に好きなった相手までこの女に取られたの!この女、会社の創立記念のパーティーに副社長と同じ部屋から出てきたのよっ!!一体、私があんたに何をしたって言うのよっ!」
『誠』という名前が聞こえ、私と真希ちゃんはほぼ同時に西田くんの方を見る。
「…あ、前に話をした元カノが彼女、芙美なんだ。」
西田くんは気まずそうに言った。
「「はぁっ!?」」
真希ちゃんと声が揃った。
「1年ほど芙美とは付き合っていたんだけど、社内に長月がいることを知って好きな人ができたからって別れたんだ。好きな人が長月とは話した覚えがなかったんだが…。」
その様子をみて矢部芙美は西田くんに向かって叫ぶ。
「そりゃ、態度をみてればわかるわよっっ!普段のお昼は定食屋に行くかコンビニがメインだったのに、突然社員食堂ばかり通い始めて…。」
この二人が繋がっていたとは夢にも思わなかった。
「だからお前は中村を使って葛城くんのお嬢さんに嫌がらせをしたのか?」
矢部議員の声には怒りが含まれていた。
「私は何も中村に頼んでいないわっ!この女を少し懲らしめられたらって…。副社長とお近づきになれたって嬉しいな…。としか…。」
「お嬢様!酷いです!僕はお嬢様の為にここまで…。」
「馬鹿もんっ!!!お前ら二人は一体何をやっているんだっ!!市ノ川家の皆さんのご迷惑をかけてっ!!!」
「そうよ、芙美。航希くんが今フリーになっているからってお見合いのお話を喜美ちゃんにお願いしたのに…。まさか、あなた達が原因で航希くんが別れていたなんて…。」
両親に真実を明らかにされ矢部芙美は何も言えずにいるが、常にキッっとこちらを睨みつけていた。
「航希くん、娘が迷惑をかけたね。君が伝えたい事はよくわかった。今日の見合いは無かったことにしてくれ。今後娘を君たちに近づけさせないと約束する。だからどうか今回の件は内密に頼むよ。」
「二度と同じようなことが無いようにお願いします。」
深々と航希は頭を下げた。
「あぁ…、市ノ川社長と葛城くんにも仮を作ってしまったね、何かあれば力になるからいつでも言ってくれ。それでチャラにしよう。」
矢部議員が振り返ってそう一言いうと、矢部家メンバーは秘書の中村さんを含め全員部屋を出て行った。
その言葉にお父さんも市ノ川社長もそれぞれ言いたいことはありそうな顔をしていたが、仕方なく受け入れているようだった。
後日、黒田さんからの話では矢部芙美は退職届を出してきたそうで、社内で顔を合わすこともなくなるだろう。と言っていた。
「さぁ、我々だけになりましたが、こちらの料亭の甘未も美味しいですよ。皆さんでどうでしょうか?」
お父さんはしらけ切ってしまった場を和ますために、部屋に残された人たちに声をかけ皆を籍につかせた。
それぞれ注文が終わると痺れを切らした市ノ川社長が話し出す。
「航希、そろそろ紹介くれてもいいんじゃないか?」
「あぁ、そうだった…。彼女が俺の恋人の長月 文さんです。」
航希に紹介されたので市ノ川社長に向かって深くお辞儀をした。
「お前たしかフラてたんだよな?恋人だったの間違いじゃないのか??」
社長は航希に揶揄いの言葉をかける。
「あれは今日の一幕で無しになった。だよな、文。」
「えっ…。それは…。」
「ほら見ろ、違うみたいだぞ?」
「別れたのは無しだっ!!!」
はっきり答えない私にふくれっ面を見せ、それを見て笑う者もいれば西田くんの様に微妙な表情をする者もいた。自分の勤める会社の経営者のいじけている顔なんて見たくなかったのだろう。
「まぁまぁ、市ノ川社長、あまり航希くんをいじめないでやって下さい。」
「そういう葛城くんこそ、航希の彼女が君の娘って一体どういう事なんだ?」
独身貴族で有名だったアクアリゾートの御曹司に浮いた話は一切なかった。突然、自分の娘だと紹介され驚かない人はいない。
お父さんは自分の過去を含め親子鑑定の結果をここにいる皆に伝えた。
「文、お父さんが見つかって良かったね!!しかも、お父さんがあのアクアリゾートの社長さんだなんて凄すぎだよっ!!」
文ちゃんは私に父親が見つかった事、航希ともう一度付き合えることになった事、心から喜んでくれた。
沢山心配してくれた真希ちゃんにはいくら感謝してもしきれない。私にとって最高の友達であり、最高のお姉ちゃんだ。