眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
11時を回ると普段外出が多い社員も雪の影響で外に出られないので普段より社食は混みあっていた。
予想通り雪の影響で出社が遅れた調理場スタッフもいたので、飲食スペースも調理場も(せわ)しなく動いていた。

普段、調理場の補助やスタッフルームで事務作業をしている文も人が足りないので珍しくホールに出ていた。
片づけは基本セルフサービスなのだが、出しっぱなしにされている食器もあるので、テーブルを拭きに回りながら片づけを手伝う。

「そーいやさー、秘書課の黒田さんが人を探してるらしいよ~。」

スーツを着た男性社員が話しているのが聞こえた。

 …黒田さんって昨日の内線201の人かな?
 
 くすっ。

なんて考えながら片づけをしていると、うっかり後ろに立っていた人にぶつかってしまった。

「すみませんっ!大丈夫ですか?」

振り返って食器から視線を相手に移すとそこに居たのは高校を卒業してから一生会いたくないと思っていた人物だった。

「西田くん…。」

「長月、おまえが何でここに…。」

高校時代、私が児童養護施設出身という偏見からなのか、やたらと目の敵にされていた。
顔を見れば親がいないからあーだこーだと悪口しか言ってこない彼が大嫌いだった。だから、学生時代はなるべく同じ空間にいないで済むように努力を惜しまなかった。
それなのに、まさか社会人になって職場で再会してしまうなんて…。

 ……悪夢だ。

特別ぶつかった影響はなさそうなので、そのまま食器を下げに行こうとすると、西田くんに腕を掴まれた。

「おい、待てよ。」

『ガッチャーーーンッ』

掴まれた勢いで食器をトレイごと落としてしまった。

「失礼しました。」

食事をしている方々に対してお詫びを言う。

「…わ、悪い。」

「いえ、大丈夫です。」

急いで彼の前から消えたくて、慌てて床に散らばってしまった食器とトレイを拾い集め、まき散らしてしまった残飯を持っていたダスターで床を拭いた。

「……長月。」

何か言いたげにこちらを見ていた様子だったが、まったく気づかない振りをし、床が綺麗になると西田くんの顔を見ずにそのまま立ち去った。

 …なんて、最悪なのっ!
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