十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

 破滅エンドに向かってしまう前に、殿下との婚約を解消してサラとくっついてもらわなければ。

 嫌われようとしていたけれど、現時点で自分が婚約者であることに嫌になっている可能性だってあるんだし、なるべく早く殿下のお荷物にならないように動かなくっちゃ。

 手を離そうと動かすけれど、何故か尚更殿下の手に力が入った。

 殿下は未来の自分が私を殺すなんて知る訳もないけど、私には力の入り方が貴様を必ず死の淵まで引きずって行くからな、とでも戦線布告されているようで冷や汗が背中に流れた。

 これだけ握り締められているはずの手も、妙に冷たくなってきた。

「……!」

 いきなり殿下が慌てたようにこちらを振り返るが、あの険しい表情は見当たらない。

 私は冷たい表情のまま真っ直ぐに殿下を見つめていると、ほっとした様子ぎこちない笑みを浮かべるだけ。

 本当……その笑みすらも愛おしいです、殿下。

 想いを口にすることは許されたものではないと、バレないように唾と一緒に言葉を飲み込んで目を逸らした。

 逸らした視線に映ったのは、見慣れた我が家の屋敷。

 今日と言う殿下との特別な時間を過ごせるのも残り僅かになっていることを伝えてきた。

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