十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
これが最初で最後の殿下との時間。明日からは徹底的に悪役令嬢を演じてみせるんだから。
馬車が屋敷の前に止まる頃にはもう、心臓のうるささは消えていた。
「送っていただきありがとうございました。では、失礼致します」
馬車の扉が開かれ、私は挨拶を告げて降りようとしたが、殿下は私の手を離さなかった。
「殿下?」
ゆっくりとこちらを見つめる目は名残惜しそうで、尻尾を下げてガッカリする犬のように見えてきた。
こんな殿下、見たことない……。いつも凛々しい殿下がこんな表情を見せるなんてこと、想像も出来なかった。
ここは悪役令嬢として手を振り払って馬車から降りることが正解なのだろうけど、それをさせてくれない殿下の視線に狼狽えてしまう。
「エリーザの帰る場所が同じだったら……どれ程いいか――」
「えっ……」
「今日はありがとうエリーザ。夜は冷える。温かくしておやすみ」
そう言って握っていた私の手の甲にそっと口付けると、ゆっくりとその手を離した。