十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
よく見かけるようになった二人の姿に周囲からの噂が絶えなくなっても、殿下から声が掛けられる度に胸が高鳴るのは治まらない。
逃げるようにして殿下の前から走り去ろうとするけれど、その前に迫ってきた殿下に距離を詰められ壁の感触が背中にぶつかった。
逃げ道を作らぬようにと殿下は壁に両手をついて、顔を覗き込まれ思わず息を呑んだ。
「ど、どいて下さりませんかっ!」
「嫌だ」
身じろぐ私の力ではびくりともしない殿下の力は、その瞳にも宿っていた。
王族としての力なのか、それとも好きな人だからなのか……どうしても真っ直ぐな瞳を逸らすことが出来ない。
押し殺そうとしているはずの殿下への気持ちがまた溢れてしまう前に、ここから逃げないと。
現状は迎える最悪の結末からズレているとしても、殿下が私を想ってくれることなんて無いんだから。
「なんで俺を避ける?」
「殿下にも、私にも選ぶ権利はありますわ」
「何が言いたい」
私は選ばれることはないんだから、早く諦めさせて欲しい。殿下を想う気持ちが加速してしまう前に。
だからごめんなさい、こんな醜い私のことは放って置いて下さいっ……。
「だから、その……!」
「はあ……どうやら、きつく教え込む必要があるみたいだな」
「っ……!」
「生憎、俺は諦めが悪い性分なんだ」
徐に近づいてきた殿下の唇が、私の首元で甘く噛みついては離れない。
感じた事のない刺激に体を震わせると共に、小さな短い悲鳴が零れた。
暫くして殿下の唇が離れたかと思いきや、不敵な笑みを浮かべた顔がすぐ目の前にあった。
「……絶対に、俺が……えて……せる」
静かに呟いた殿下の声は、思考が停止し動けなくなった私の耳には届くことはなかった。
去って行く後ろ姿に何も言えないまま、鼓動だけが暴れるように音を立てていた。