網川君の彼女は、お値段の張る“ユーリョーブッケン”。
ぼんやりと外を眺めていた私に、春夜は


「沙月は何したいとかある?」


訊いてくれたけど、私にも特にない。


首を横にふると、彼は「そっか」と言って私に一歩近づいた。



思わず、一歩遠のく。


するともう一歩、彼が近づいてきた。



「な、なんでこっち来るの・・・っ」


「んー・・・かわいーから?」


「意味わかんないっ・・・」



そう言っている間にも、私は壁へと追い込まれる。


「なにっ・・・?」


両手で逃げ道を塞ぐ彼の顔が、どアップで私の視界を支配した。


「なあ」


その顔がどことなく不機嫌に見えるのは、気のせいだろうか。



「前に言ってた藍谷ってやつ。沙月はそんなに好きだった?」


「・・・っ・・・急になに・・・」


「こたえて」


少しピリッとした空気。
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