網川君の彼女は、お値段の張る“ユーリョーブッケン”。
初めての感覚に身じろぐ。


するとすぐに唇は離れていった。


「どう?沙月」


春夜が少しだけ、微笑んでる。


私は少しぼーっとしてる。


それに「どう」って、どうこたえれば良いのかよくわからない。


でも、彼は私を救おうとしてくれているのかな、と思って。


「・・・ありがと」


ぼそっと、呟いた。


「沙月」


「・・・なに」


彼が私の名を呼ぶから、こたえれば。


彼は意地悪そうに笑って。


「俺が沙月の条件呑んでキスするかわりに、俺は好きなときにお前に触れるから」


そう言った。



「・・・それは違うでしょ」


「違わないでしょ。俺が沙月の我儘きくんだから、沙月は俺の我儘きいてくれないと」


「それはごもっともですが」


「じゃー決まり」


んじゃ、と彼は教室を出ていった。


音を立てて閉まったドアが空間を閉鎖的にする。


「・・・なんて勝手な」



――不思議だな、と思った。


彼も、彼のキスも。
< 19 / 52 >

この作品をシェア

pagetop